研究課題/領域番号 |
24590099
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
東 祐太郎 東邦大学, 薬学部, 准教授 (80231918)
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キーワード | アポトーシス / カルレティキュリン / 抗がん剤 / 貪食 |
研究概要 |
本研究では、抗がん剤で処理された腫瘍細胞で認められた小胞体タンパク質calreticulin(CRT)の細胞表面移行のメカニズムと細胞表面における存在様式を解析し、腫瘍の貪食除去における細胞表面CRTの役割を明らかにすることを目的としている。そのため初年度にあたる昨年は、抗がん剤mitoxantrone(MIT)処理によるCRTの細胞表面発現量の変化とcaspaseおよび小胞体ストレスとの関係について検討し、抗がん剤により誘発されたアポトーシスの初期に、小胞体内のCRTが小胞体ストレスとcaspase8の活性化を介して細胞膜へ移行するメカニズムを明らかにした。そこで本年度はこのCRT 移行メカニズムを細胞レベルで確証するため、ヒト大腸がん細胞株HT29 細胞、ヒト肝がん細胞株HLF 細胞を実験材料に用い、蛍光タンパク質DsRedまたはmAG1を標識した蛍光標識CRTを遺伝子導入により細胞内で作製し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析した。その結果ER-mAG1-CRT-KDEL 配列をHLF細胞にエレクトロポレーションを用いて導入することで、蛍光標識CRT(mAG1標識CRT) を持つHLF-ER-mAG1-CRT-KDEL 細胞を作製することができた。さらにこのHLF-ER-mAG1-CRT-KDEL 細胞をMITまたは小胞体ストレス誘発剤thapsigargin(Tpg)で0~24 時間処理し、反応後のCRT の局在変化を観察したところ、経時的なCRT の凝集と細胞膜への局在化が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、抗がん剤処理された腫瘍細胞におけるCRTの細胞表面への移行メカニズムと細胞表面における存在様式を解析し、腫瘍細胞の貪食除去における細胞表面CRTの役割を明らかにすることを目的としている。本年度は細胞表面における存在様式を検討する実験系に用いる蛍光標識CRTを持つ細胞の作製を試み、mAG1標識CRTを持つHLF-ER-mAG1-CRT-KDEL 細胞を作製できた。さらに今回作製できた細胞を用いてMITと小胞体ストレスによるCRT の凝集と細胞膜への局在化が確認されたことから、存在様式を検討できる準備が整い、目的は順調に達成されつつあると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの報告から、CRTは細胞表面でTSP -1やαvβ3インテグリンと共に結合することで認識され、マクロファージや樹状細胞による貪食とその抗原提示を介した免疫系の活性化につながる可能性が考えられた。そこで本年度作製したHLF-ER-mAG1-CRT-KDEL 細胞を用いてCRTを標識しているmAG1とは蛍光波長の異なった別の蛍光色素で標識された抗体によりTSP-1、αvβ3インテグリンを染色し、CRTとの結合や共局在について解析する。得られた結果から抗がん剤処理早期に小胞体から移行するCRTの細胞表面における存在様式について検討し、貪食への関与と役割について考察する。 また後期のCRTの発現では、PSとともに細胞膜脂質ラフト上に現れることが報告されていることから、早期の場合も脂質ラフトとの関係については検討する必要がある。細胞膜脂質ラフトは構成成分にGM1を有していることから、蛍光標識抗GM1抗体を用いて染色し、共焦点レーザー顕微鏡により観察する。また観察が困難な場合はラフト分画を遠心分画により分取し、CRTやその他の分子の存在についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に予備実験に使用する予定であった試薬を既存のもので賄うことができたため、未使用額が発生した。昨年度は年度当初から未使用分とあわせて研究費を使用したが、前年度の未使用分がわずかに残った。 本年度は細胞培養に用いる培養液、培養器材のほか、遺伝子導入に必要な試薬、標的タンパクの抗体など消耗品の購入にあてる。
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