研究課題/領域番号 |
24590103
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
藤室 雅弘 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (20360927)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ウイルス / 発がん / プロテアーゼ / ユビキチン / 翻訳後修飾 / カポジ肉腫 |
研究概要 |
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は、ヒトに感染すると2本鎖環状DNAとしてし、細胞核内で潜伏感染する。しかし、感染者の免疫不全時に、KSHVはカポジ肉腫を引き起こす。KSHVは核内で潜伏期関連核抗原(LANA)を発現する。LANAはウイルスDNAの維持と複製を行なうと共に、p53やWntシグナル伝達を破綻させることで、感染細胞のがん化や感染維持を行なう。申請者はLANAの細胞内での動態や分解について解析を実施し、LANAは脱ユビキチン化酵素(USP7)と結合すること、また、LANAは細胞内においてプロテアーゼにより切断を受けることを明らかにしてきた。 本年度の研究により、LANA-C末端に存在するUSP7結合領域と、USP7分子内のLANA結合領域を決定した。また、HSV-1のICP0がUSP7により安定化するのと同様に、USP7はLANAの脱ユビキチン化と安定化に関与していた。 一方で、核局在シグナル(NLS)を持つ核蛋白質のLANA蛋白質は、mRNAから翻訳された後、核移行する前に細胞質で切断を受け、不安定なN末端領域(中央領域を含む)と、安定な約30kDaのC末端断片(LANA-C frag)の二つの断片を生成することを見出した。LANA-C fragはNLSを持たないため、細胞質に局在する。次に、LANAの切断酵素の精製を行った。LANAの切断部位を中央に含む8アミノ酸のポリペプチドのN末端とC末端にそれぞれ蛍光団と消光団を導入した合成基質を作成し、この合成ペプチドを基質として用いてゲルろ過クロマトグラフィーにより切断酵素を精製した。LANAプロセッシング酵素は、細胞質に局在し分子量は約35kDaであることが明らかになった。また、各種阻害剤を用いた解析により、LANAのプロセッシング酵素はシステイン(またはセリン)プロテアーゼであることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載の計画どおり、KSHVが潜伏感染時に細胞核内で発現するLANAと脱ユビキチン化酵素(USP7)との結合に関わる責任領域をLANAとUSP7の各種欠損変異体を用いた免疫共沈降実験にて明らかにできた。今後は、LANAとUSP7両者の結合が、USP7の脱ユビキチン化活性に依存したLANAの安定化なのか否か等の生理的意義を解析していく。 LANAのプロッセッシング機構の解明は、次年度の研究課題であったが前倒しで本年度から実施した。LANAのプロセッシング酵素の同定には至らなかったが、今回の研究により、LANAのプロセッシング酵素精製のための強力なツールを得た。つまり、LANAの切断部位を中央に含む8アミノ酸残基のペプチドのN末端とC末端に蛍光団と消光団を導入した合成基質である。この合成ペプチドを基質として用い、アフィニティークロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィーによりLANAのプロセッシング酵素の精製と同定を行いたい。 一方で、LANA分子の中央の繰り返し配列がプロテアソームを阻害するのか否かについては、アッセイ系の確立が困難だったため、期待する結果は得られていない。今後、アッセイ系を改善して、LANAによるプロテアソーム阻害とポリユビキチン化蛋白質蓄積のウイルス学的意義を明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
申請書に記載の計画どおり、次年度はp32のミトコンドリア内での成熟機構とLANA-C fragとp32の結合の生理的意義の解明と、LANAのプロッセッシング酵素の同定を実施する。 細胞内のLANAのプロッセッシング酵素により完全長のLANAから切り出されたLANA-C fragは細胞質に局在する。細胞質において、LANA-C fragはp32前駆体と結合することでp32のミトコンドリアでの成熟を阻害すると考えられている。p32はN末端にミトコンドリア移行シグナルを有し、翻訳後速やかにミトコンドリアに移行し、ミトコンドリアの内膜、またはマトリックスで切断され成熟体となると考えられる。また、成熟体p32はアポトーシス誘導への関与が報告されているが、その真の機能は不明である。これら不明な点について明らかにしていく。 脱ユビキチン化酵素USP7は単純ヘルペスウイルス1型のICP0蛋白質の安定化や、EBウイルスのEBNA1の安定化を行うことが報告されている。もともと、USP7はICP0(溶解感染移行分子)の結合因子として同定され、ICP0の安定化を促進する脱ユビキチン化酵素として報告された分子である。次年度は、LANAとUSP7両者の結合が、USP7の脱ユビキチン化活性に依存したLANAの安定化を誘導するのかを解析し、安定化したLANAは機能の亢進によりKSHVの病原性を増悪させるのか等の解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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