研究課題
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は、感染者の免疫不全時にカポジ肉腫やB細胞性リンパ腫を引き起こす。KSHVは健常人に感染すると2本鎖環状DNAとなり細胞核内で潜伏感染する。潜伏感染時に、KSHVは潜伏感染関連核抗原(LANA)を発現し、LANAはウイルスDNAの維持を行うとともに、感染細胞の発がんに関与する。我々は既に、LANAは脱ユビキチン化酵素(HAUSP/USP7)と結合し、LANAはHAUSPにより脱ユビキチン化されて安定化することを見出している。本年度の研究において、HAUSPはLANAの有する機能の一つであるKSHVゲノムの維持と効率的複製を亢進させることを明らかにした。すなわち、HAUSPによる脱ユビキチン化により、LANAはプロテアソームによる分解シグナルとなるポリユビキチン化を回避することで安定化し、KSHVゲノムの維持と安定化に寄与したと考えられる。一方で、LANAは、細胞性プロテアーゼにより一箇所切断を受け30kDaの安定なC末端断片(LANA-C)を生成することを明らかにしている。このLANA-Cはミトコンドリア蛋白質のp32前駆体と結合してp32の成熟を阻害する。p32前駆体はN末端部にミトコンドリア(Mt)移行シグナルを有し、Mt内で、その移行シグナルが切断され成熟体p32となる。本年度の研究において、p32前駆体のMt内における移行シグナルの2段階における切断様式と切断部位を明らかにし、LANA-Cはp32前駆体の移行シグナルの2段階目の切断を阻害することを見出した。さらに、KSHV関連腫瘍を標的とした抗腫瘍化合物と抗KSHV化合物の探索を実施した結果、アデノシン誘導体のサンギバマイシンがKSHV感染B細胞性リンパ腫に対する抗腫瘍活性を有し、ERストレス誘導剤のジアシルトリスルフィドはKSHV複製阻害活性を有することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記載の計画通り研究は実施され、研究結果も得られている。また、前年度において研究が完了していなかったKSHV関連腫瘍を標的とした抗腫瘍化合物と抗KSHV化合物の探索については今年度において計画通り実施され、期待される成果も得た。なお、本年度達成できなかった研究計画は、成熟体p32の機能解析とLANAによる成熟体p32の生成阻害がKSHVにとってどの様なウイルス学的意義を持つのかを明らかにすることである。来年度は、p32の局在性変化、アポトーシス抵抗性、転写活性、核・細胞質・ミトコンドリア間の蛋白質輸送の変化について焦点を当て解析を実施し、p32の真の機能の解明を目指す。さらに、KSHV関連腫瘍を標的とした抗腫瘍化合物と抗KSHV化合物の探索については多くの有益な知見が得られたので今後も、新規化合物発見に向けて展開していきたい。
LANAは細胞性プロテアーゼにより一箇所切断を受け、30kDaの安定なC末端断片(LANA-C)を生成する。今後は、このLANAのプロセッシング酵素の特徴付けと同定を実施する。LANAの切断部位を含む合成ペプチドを基質として用い、各種クロマトグラフィーによりLANA切断酵素の精製を実施予定である。LANA-Cは細胞質に局在し、p32前駆体と結合してHABP1のミトコンドリアでの成熟を阻害する。p32は、HABP1、またはgC1qRとも呼ばれ、もともと、pre-mRNA splicing factor binding proteinとして同定されたが、その後の研究により、p16依存的なアポトーシス誘導、転写調節、さらに、核・細胞質・ミトコンドリア間の蛋白質輸送などに関わっていると報告されているが、その真の機能は不明である。これらの知見と我々の結果より、LANAによるp32の成熟体形成抑制は、KSHVがp32の機能を阻害するためと推察できる。今後は、成熟体p32の機能を明らかにし、LANAによる成熟体p32の生成阻害がKSHVにとってどの様なウイルス学的意義を持つのかを解明する。また、KSHV関連腫瘍を標的とした抗腫瘍化合物とKSHVの増殖抑制効果を持つ抗KSHV化合物の探索については今後も実施していきたい。
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Mol. Cell. Biol.
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http://labo.kyoto-phu.ac.jp/cellbiology/