研究課題/領域番号 |
24590104
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
浅野 真司 立命館大学, 薬学部, 教授 (90167891)
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研究分担者 |
向所 賢一 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (50343223)
位田 雅俊 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (70512424)
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キーワード | アクチン結合タンパク質 / 上皮組織 / トランスポーター / アダプタータンパク質 / 神経ネットワーク / 生理学 |
研究概要 |
エズリン欠損マウスでの胆管障害について検討した。エズリンは肝臓内では胆管細胞に発現する。エズリン欠損マウスでは肝内胆管細胞の増殖や胆管周辺の繊維化、胆汁酸の滞留、肝障害が観察された。このことから、エズリンの欠損が胆管細胞の機能異常を誘起することが考えられた。次に、不死化させた胆管細胞(NMC細胞)に野生型のエズリン(WTE細胞)、またはC末端側のドメインを欠損したドミナントネガティブ体のエズリンを発現させた安定発現株(DNE細胞)を構築した。NMC細胞に内在的に発現し、胆汁の流動性の調節に働くCFTR(クロライドチャネル), AE2(アニオン交換輸送体), AQP1(水チャネル)タンパク質の発現レベルや発現部位の検討を行った。WTE細胞と比較してDNE細胞では、アピカル側細胞表面でのCFTR, AE2, AQP1の発現が低下して、CFTRの活性化(リン酸化)が阻害され、Cl-輸送活性が有意に低下した。これらの実験結果から、エズリンは胆管細胞においてCFTR, AE2, AQP1の細胞膜表面への発現を促し、Cl-輸送活性を活性化し、AQP1による水分泌を促進して胆汁の流動性を高めることが明らかになった。 これとは別に、エズリンの神経細胞の軸索や樹状突起の形成における働きを検討した。エズリン欠損マウス由来の初代神経培養細胞を用いて、神経突起形成を観察したところ、野生型由来の培養神経細胞と比較して有意な神経突起の数の減少と、Gタンパク質であるRhoAの活性化、ミオシンのリン酸化が観察された。これらの現象はRho kinaseの阻害剤を添加すると回復することから、エズリンはRhoAを介して、神経細胞の軸索や樹状突起の形成の調節に働くことが確認された。 現在、これらの成果を取り纏めた論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度には、エズリン欠損マウスの腎機能を、おもにリン酸代謝の観点から検討しKidney International誌に論文発表を行った。これにつづく平成25年度の研究成果(研究実績の概要に記載した2課題:胆管細胞における病態生理機能、神経細胞における生理機能)については、論文作成を終えて投稿中である。年度前半を目処に論文受理されることを目指している。 これと平行して、野生型マウスとエズリン欠損マウスから腎臓や小腸の刷毛縁膜画分の単離、調製も進めており、質量分析によるタンパク質の網羅的な解析の準備が整いつつある。年度後半には、両者の間でのタンパク質の発現プロファイルの比較が明らかにできる予定である。 遺伝子改変マウスを用いたin vivo実験に関しては、エズリン欠損マウスに加えて、ラディキシン、モエシン欠損マウスの繁殖に成功し、系統維持が可能となった。これにともなって、エズリン、ラディキシン、モエシン各欠損マウスから初代培養神経細胞を構築し、神経突起の伸長、分岐などに対する影響を比較、検討することが可能となった。 以上のように概ね計画通りに研究が進捗しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
アクチン結合タンパク質であるエズリンの生理機能の解明に向けて、これまで通り、遺伝子改変マウスを用いたin vivo実験と、初代培養細胞系や不死化細胞などを含むモデル培養細胞系を用いたin vitro実験系を統合して、包括的な理解を進める形で研究を実行する。上皮組織は生体防御の最前線にあり、バリア機能と、繊細に調節された細胞内外での膜輸送機能を併せ持つ。細胞膜直下で膜タンパク質と細胞骨格とを連結する位置にあるエズリンが、上皮組織の構築や輸送機能の統括にどのように関わるかを可能な限り体系的に明らかにしたい。 また、神経ネットワークの構築における役割に関しては、エズリンのみならずラディキシン、モエシンをも研究対象として(欠損マウス等を用いて)、神経組織の発達過程という時間軸も含めて三者を比較しつつ検討する。 エズリン欠損マウスに見られる形質は、リン酸代謝という観点では骨軟化症と類似し、胆管機能という観点では嚢胞性線維症や原発性胆汁性肝硬変と類似する。同様に、ラディキシン、モエシンの欠損マウスの形質についても、ヒトの疾患との関連性という観点から検討を行いたいと考える。
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