研究課題/領域番号 |
24590109
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 富山県薬事研究所 |
研究代表者 |
小笠原 勝 富山県薬事研究所, その他部局等, 研究員 (30443427)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 腫瘍 / ベツリン |
研究概要 |
本年度は、ポリ(I:C)により亢進した脾臓細胞のNK活性を指標に、TGF-βまたはPGE2の抑制作用に対するベツリンの解除効果に関与する細胞について検討した。その結果、樹状細胞を除去するとベツリンの作用が消失することを明らかにした。そこで、樹状細胞とNK細胞の共培養系でベツリン等の影響を検討したところ、ポリ(I:C)の作用は認められたが、TGF-βの抑制作用及びベツリンの影響は認められなかった。このことから、ベツリンの作用には樹状細胞とNK細胞以外の細胞も関与していることが分かった。B細胞あるいはT細胞の関与について、Scidマウスの脾臓細胞にコントロールマウス由来のB細胞またはT細胞を加えた共培養系を確立し、ポリ(I:C)、TGF-βまたはPGE2、及びベツリンの影響を検討した。その結果、いずれの共培養系においてもポリ(I:C)の作用に対してTGF-βまたはPGE2の抑制作用は認められたが、ベツリンはこれら抑制作用をほとんど解除しなかった。ベツリンは、Scidマウスの脾臓細胞にB細胞とT細胞を加えた条件下においてのみ抑制解除作用を示した。これらのことから、ベツリンの作用には、樹状細胞、NK細胞、B細胞、及びT細胞が関与していることを明らかにした。TGF-βのシグナル伝達系にベツリンが影響を与えているかを脾臓細胞を用いて検討した。TGF-β処置によりSmad2及びSmad3のリン酸化が認められ、これらはTGF-β受容体キナーゼ阻害剤(SB431542)で抑制されることを確認後、ベツリンの影響を検討したところ、これらシグナル伝達分子のリン酸化は全く阻害されなかった。同様に、PI3Kシグナル系及びMAPKシグナル系に係る伝達分子のリン酸化にもベツリンはほとんど影響を与えなかった。これらのことから、ベツリンはTGF-βのシグナル伝達系とは異なる部位に作用していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度当初の計画では、1.ベツリンの標的細胞を同定し、2.その細胞に着目してTGF-β等のシグナル伝達系に及ぼすベツリンの影響を検討する予定であった。 1.については、当初、脾臓細胞から1種類ずつ細胞を除いていけば、いずれかの細胞を除いた時点でベツリンの作用が消失し、その結果からベツリンの標的細胞を同定できると考えていた。しかし、実験を行った結果、いずれの細胞を除いた時もベツリンの作用は減弱し、ベツリンの作用には4種の細胞が複合的に関与していることが分かった。このことは、当初の想定外の結果であり、細胞間の相互作用がベツリンの作用の発現に重要であることを示唆するものである。したがって、ベツリンの標的細胞をさらに詳細に解析していくことで、当初予想できなかった新たな発見に繋がる可能性があると考えられた。 2.については、脾臓細胞を用いて検討したところ、ベツリンがいずれのTGF-βシグナル系にも影響を与えないことを明らかにした。当初、ベツリンはTGF-βシグナル系を阻害することで抑制を解除していると想定していたが、この実験結果は、TGF-βの抑制作用を解除するには既知のシグナル系の阻害することとは別の機序が存在することを示唆する重要な知見となった。ベツリンが、どのようにしてTGF-βの抑制作用を解除しているのか、この点を明らかにできれば極めて新規性の高い発見に繋がる可能性があると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度当初の計画では、1.TGF-β及びPGE2による遺伝子発現制御に及ぼすベツリンの影響、2.TGF-β及びPGE2のシグナル伝達系に共通する制御分子の探索、を行う予定であった。これらを遂行するにあたり、(1)ベツリンの作用に4種の細胞が関与しているところまでは絞ることができたので、この中から主な標的細胞を決める必要がある。また、(2)TGF-βシグナル系への影響が認められなかったことから、これらとは異なる分子への影響を検討する必要がある。特に、2.については、当初の仮説として、TGF-β及びPGE2のシグナル伝達系に共通する制御分子の存在を設定したが、(2)に記載したように当初の想定外の結果を得たことから、これを反映した新たな仮説を設定することが本研究の目的の達成に必要であると考えた。 そこで、現在、新たな仮説として、「ベツリンは、ポリ(I:C)の作用を増強することで、異なるシグナル伝達系を介するTGF-βとPGE2の二つの免疫抑制作用を解除している」を設定し検証を進めている。予備検討では、ベツリンがポリ(I:C)の作用を強力に増強する結果を得たことから、この仮説の正しさが支持されたものと考えている。 今後は、この新たな仮説「ベツリンによるポリ(I:C)の作用の増強」の観点から、あらためてベツリンの標的細胞、標的分子の検討を進め、当初の目的である「TGF-β及びPGE2の免疫抑制機構の解明」の達成に繋げていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
目的を達成するため、24年度に明らかにした研究成果に基づいて仮説を設定し直したことから当初の研究計画に軽微な変更を加えたことになるが、研究の目的および明らかにしようとする点、そのために用いる手法等は当初と同じである。したがって、25年度の研究計画と24年度に未解決となった「ベツリンの標的細胞の同定」の遂行に、24年度予算のうち25年度に繰り越した62,180円と25年度分として請求した助成金を合わせて充てるものとする。
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