研究実績の概要 |
細胞性粘菌Dictyostelium discoideum(以後「粘菌」)は、単純な生活環を有する土壌微生物の一種であり、発生生物学や細胞生物学分野のモデル生物として古くより世界中で研究されている。我々は、この粘菌を用いて、細胞分化や走化性運動の機序解析を進めてきた。近年、細胞性粘菌類は「未開拓創薬資源」として注目されている。DIF-1, DIF-2, DIF-3は、粘菌の柄細胞分化誘導因子として1980年代後半に発見された低分子化合物だが、近年我々は、DIFとその誘導体が薬理活性(抗腫瘍活性や糖代謝促進活性)を有することを見出し、DIFをリード化合物とした薬剤開発を進めている。本研究において、我々は以下のことを明らかにした。 1)いくつかのDIF誘導体が、リゾフォファチジン酸誘導性のマウスLM8骨肉腫細胞の遊走/浸潤を強力に阻害することを見出した。 2)いくつかのDIF誘導体が、PAK1(p21-activated kinase 1)を直接阻害することによってヒトMCF-7乳がん細胞の増殖を阻害することを見出した。 3)いくつかのDIF誘導体が、自然免疫系を抑制することを示した。 4)DIF-1とその誘導体の1つがマウス3T3L1線維芽細胞のグルコース代謝を促進することを見出した。また、ストレプトゾトシン(STZ)誘導性糖尿病ラットを用いて、経口投与したDIF-1がSTZラットの血糖値を下降させることを示した。 5)DIF-2は粘菌走化性運動の調節因子である。このDIF-2の作用機序の一部を解明した(粘菌は走化性運動の解析モデル生物であるため、この成果は、哺乳類の好中球やがん細胞の遊走の研究に寄与すると思われる)。
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