海馬神経細胞におけるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体の機能バランスの崩れが、側頭葉てんかんの原因となる可能性について検証するため、各S1P受容体サブタイプの働きについて明らかにすることを試みた。 今回の一連の実験では5種類あるS1P受容体サブタイプのうちS1P1とS1P2のみが発現している神経細胞SH-SY5Y細胞を用いた。各S1P受容体刺激により活性化する細胞内情報伝達経路を明らかにするため、蛍光タンパク質CFPを融合させたS1P受容体とYFPを融合させた三量体型Gタンパク質のGγサブユニットを細胞に発現させ、Gタンパク質共役型受容体であるS1P受容体とGタンパク質間の共役についてFRET法を用いて検討した。また、S1P刺激時の細胞内カルシウム動員、細胞内cAMP産生、細胞内リン酸化における各受容体サブタイプの関与について、S1P1受容体特異的遮断薬W146およびS1P2受容体特異的遮断薬JTE013を用いることで検討した。 その結果、S1P1受容体は多くの報告のとおりSH-SY5Y細胞においても三量体型Gタンパク質Giと共役しており、一方でS1P2受容体はおそらくG12/13と共役していることが明らかとなった。また、S1Pで細胞を刺激した際のカルシウム動員は主にS1P2受容体を介するものであることがわかった。 一方でごく最近、ある種の難治性てんかんにおいて、従来よりパーキンソン病の原因タンパク質であるとされてきたα-シヌクレイン(ASN)の関与を示唆する報告があった。そこでASNによりS1P受容体の機能に変化がみられるかどうか検討したところ、S1P1受容体とGiタンパク質の共役が細胞外のASNによって遮断されるというきわめて興味深い知見を得た。この現象について現在解析を進めており、近日中に論文投稿の予定である。
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