てんかん患者の約3割は、既存の治療薬でのコントロールが難しい。その「難治性てんかん」の一部に対し、ケトン食療法(食事療法)が有効であることが知られている。しかし、ケトン食療法に基づく治療薬は存在しない。ケトン食療法により、体内では「ケトン体」が上昇し、「グルコース」が減少する。そこで本研究では、ケトン食で見られる2つの代謝物変化に着目し、難治性てんかん制御剤の開発に取り組んだ。 1、ケトン体の一つであるアセト酢酸に着目し、興奮性(グルタミン酸作動性)シナプス伝達に対するアセト酢酸類似体の作用を検討した。アセト酢酸のカルボニル基をβ位からα位に動かし、ベンゼン環を付加すると、シナプス伝達が強く抑制された。次に、このフェニル化合物のα位の官能基を各種変化させたところ、シナプス伝達抑制効果も顕著に変化することが分かった。最後に、カイニン酸誘導性の慢性海馬てんかんマウスに対して、シナプス伝達抑制効果を持つフェニル化合物を投与したところ、顕著な抗てんかん作用が観察された。 2、神経細胞の膜電位を記録し、ケトン食時に観察される2つの代謝物変化を与えたところ、過分極が観察された。この過分極は乳酸投与で回復すること、また通常条件下において乳酸脱水素酵素を阻害しても過分極することから、アストロサイト-ニューロン乳酸シャトルが膜電位制御に重要であることが分かった。そこで、カイニン酸誘導性の慢性海馬てんかんマウスに対して、乳酸脱水素酵素を阻害したところ、顕著な抗てんかん作用が観察された。これらを踏まえ、既存のてんかん治療薬に関して乳酸脱水素酵素の活性評価を行ったところ、抗てんかん薬スチリペントールが乳酸脱水素酵素の阻害剤であることを発見した。最後に、スチリペントールの化学構造を改変する事で、乳酸脱水素酵素阻害作用を持つ強力な抗てんかん剤を見出した。
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