研究課題
平成24年度は、大脳皮質および海馬に特異的な発現が認められるEmx-1のプロモーター制御、ならびに線条体、海馬、小脳顆粒細胞に特異的な発現が認められるg7のプロモーター制御によってCreリコンビナーゼの発現が誘導されるマウスとFloxed ProTα Knockinマウスを交配させることで得られた、大脳皮質と海馬領域特異的にProTαを欠損マウス(ProTα-Emx-1/Creマウス)と線条体、海馬、小脳顆粒細胞特異的にProTαを欠損マウス(ProTα-g7/Creマウス)を用いて以下の解析を試みた。ProTαの欠損確認:まず、それぞれのマウスにおいて予測される脳領域でのProTαの発現が欠損していることを免疫組織化学染色法を用いて解析した。その結果、ProTα-Emx-1/Creマウスでは大脳皮質と海馬領域の神経細胞において、また、ProTα-g7/Creマウスでは線条体、海馬領域の神経細胞と小脳顆粒細胞特異的にProTαの欠損が認められた。このことから、それぞれのマウスは、設計した通りの脳領域特異的なProTα欠損マウスであることが確認された。ProTα欠損領域での遺伝子発現変化の解析:ProTα-Emx-1/CreマウスのProTα欠損領域である海馬での遺伝子発現を野生型マウスとDNAマイクロアレイシステムを用いて比較し解析した結果、ProTαを欠損した海馬では神経活動に必要ないくつかの遺伝子の発現が有意に減少していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は、タイプの異なる2系統の脳領域特異的なProTα欠損マウスの産出に成功した。この結果は、作製したマウスを本研究課題に使用することの妥当性を示すものである。また、そのうち1系統においてProTα欠損領域での遺伝子発現の変化を野生型マウスと比較し網羅的に解析することで、ProTα欠損領域において神経細胞の活動に必要ないくつかの遺伝子の発現が減少していることも明らかにした。この結果は、次年度に計画している脳領域特異的なProTα欠損マウスの行動科学的解析より得られる結果と併せることで、特異的な脳領域の神経細胞においてProTαが関与する分子制御基盤を解明するための非常に重要な手がかりとなる。このように平成24年度の研究実績は研究目的の達成に直結したものであり、実験計画は概ね順調に伸展していると考えられる。
1)通常状態での脳領域特異的なProTα欠損マウスの行動科学的解析:領域特異的なProTα欠損マウスの通常状態における形態的解析として、マウス行動に関する網羅的検査パッケージ(SHIRPA法)を用いて解析するとともに、行動科学的解析として自発運動、活動リズム(KUROBOXシステム)、記憶・学習(KUROBOXシステム、フィアーコンディショナルテスト)などに関する行動解析を行いProTαの欠損部位と行動異常の関連性を明らかにする。2)ProTα欠損に依存した行動異常と遺伝子発現変化の関連性の検証:平成24年に行ったProTα-Emx-1/CreマウスのProTα欠損領域での遺伝子発現変化の解析によって変動が認められた分子の中で、項目1)で示された行動異常に関連性のある候補分子を抽出する。次に、その遺伝子をProTα欠損領域に発現させ行動異常が改善すること、さらに、野性型マウスの対応する脳領域その遺伝子の発現を抑制し行動異常が再現することを確認し、ProTα欠損に依存した行動異常の原因となる分子について検証する。3)ProTα欠損による遺伝子発現変化の原因を検証するためのES細胞の樹立:ProTα-Emx-1/Creマウスの解析によって認められたProTα欠損領域での遺伝子発現変動が、単に神経細胞からのProTαが欠損することで生じるのか、あるいはProTαが欠損した状態が持続することによって生じるかを検討するために、ProTα欠損マウスの胎盤胞の内部細胞塊よりES細胞を単離・調整する。
平成25年度の直接経費は、1300千円である。解析に使用する動物購入費や細胞樹立などに使用する細胞培養関連試薬およびディスポーザブル器具の購入費などを含む物品費として1050千円を計上する。また、本年度は、学会発表ならびに情報収集に必要な旅費として200千円を計上する。さらに印刷代などをその他の費用として50千円計上する。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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