研究実績の概要 |
平成27年度は、まずエンリッチ環境(EE)飼育による老化促進モデルマウス(SAMP8)の頻尿改善作用に関与する中枢性の分子を同定するため、マイクロアレイ解析によるスクリーニング、さらにリアルタイムRT-PCRによる定量的解析を行った。その結果、排尿関連中枢におけるCxcl13 mRNAの発現レベルは、スタンダード環境(SE)飼育したSAMR1群(SAMP8のコントロール)に比べSE飼育したSAMP8群で有意に増加し、SE飼育したSAMP8群に比べEE飼育したSAMP8群で有意に減少した。次に、昨年度の研究で明らかにした、排尿機能に対するエンリッチ効果の末梢性機序を追究するため、マグヌス法を用いて膀胱平滑筋の収縮実験を行った。その結果、14~15週間および81~82週間のEE飼育群は、SE飼育群に比べ、膀胱収縮力を増加させた。14~15週間の飼育ではカルバコール誘発収縮と32Hzの経壁電気刺激誘発収縮を増加させ、81~82週間の飼育では2, 4, 8, 16Hzの経壁電気刺激誘発収縮を増加させた。これらのことから、排尿機能に対するエンリッチ効果の中枢性機序にケモカインのひとつであるCxcl13が関与すること、末梢性機序に膀胱のアセチルコリンに対する反応性の増大や神経原性の機序が関与する可能性が示唆された。さらに、非麻薬性中枢性鎮咳薬の急性投与はSAMP8および膀胱内酢酸注入マウスの排尿障害を改善させること、さらにその作用メカニズムを薬理学的に解析したところ、セロトニン5-HT1A受容体の活性化が一部関与することが示唆された。 以上、本研究で得られたSAMP8の頻尿様症状に対するEEと非麻薬性中枢性鎮咳薬の改善作用のメカニズムに関する基礎知見は、患者数が増大している高齢者の夜間頻尿など、排尿障害に悩む患者やその家族が求める根本治療薬の開発基盤の構築に貢献するものである。
|