研究課題/領域番号 |
24590117
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
富樫 廣子 北海道医療大学, 薬学部, 教授 (20113590)
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研究分担者 |
柳川 芳毅 北海道医療大学, 薬学部, 講師 (20322852)
松本 眞知子 北海道医療大学, 薬学部, 助教授 (70229574)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 心的外傷後ストレス障害 / 情動行動 / 発達期ストレス / 恐怖記憶 |
研究概要 |
本研究は、脳機能発達期である幼児期の過度のストレスが、情動神経回路の形成不全あるいは情報処理機能の障害を引き起こし、成長後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)や不安障害などの精神神経疾患の易罹患性の背景になっているとの仮説に基づき、恐怖記憶の形成及び消去過程における神経機構を検討したものである。その結果、恐怖記憶の消去過程においては、単なる恐怖記憶の消去ではなく、消去記憶という新たな記憶が形成されることを、文脈的恐怖条件付け試験における行動応答と情動回路(皮質-辺縁系)におけるシナプ伝達を同時に記録することによって神経生理学的に初めて明らかにした。すなわち、恐怖記憶の消去過程および想起時には、それぞれ海馬及び皮質前頭前野におけるシナプスの可塑的変化が重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、遺伝的に恐怖記憶形成障害を呈する注意欠如多動性モデルを用いて、恐怖記憶の形成には皮質-辺縁系が重要であることも明らかにした。また、恐怖記憶の形成には、脳内サイトカインを介する新たな調節機構があることを初めて明らかにした。 文脈的恐怖条件付け試験における行動応答に性差が認められることから、恐怖記憶の形成及び消去過程における神経機構の違いを検討した結果、セロトニン神経の起始核の一つである正中縫線核セロトニン陽性細胞数に違いがみられることなど、セロトニン神経系の関与を示唆する結果を得た。 これら恐怖記憶の階層的情報処理機構に関わる脳内神経回路におけるシナプス伝達が、発達期の過度のストレスによって障害されることを、離乳前後の幼若期にストレスを負荷した雄性ラットを用いて明らかにした。 これらの成果は、国内学会において発表し、論文として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年から25年度の実験計画に基づき、恐怖記憶の階層的情報処理機構について文脈的恐怖条件付け試験を用いて追究した。すなわち、恐怖記憶の獲得、再生ならびに消去過程(消去試行ならびに消去記憶の想起)の三つの側面から1)海馬-皮質前頭前野(mPFC)神経回路のシナプス可塑的変化を電気生理学実験と行動解析を組み合わせた覚醒下における実験ならびに麻酔下における実験、ならびにシナプス可塑性に重要な役割を担っているextracellular signal regulated kinase (ERK)活性の動的変化より明らかにした。さらに、これらシナプス応答に対する2)扁桃体刺激による影響を評価し、情動神経回路のシナプス可塑性と情動行動表出において扁桃体が抑制的に調節していることを明らかにした。 これらの実験を離乳前後に嫌悪刺激に曝露した幼若期ストレス負荷ラットについても行い、離乳前のストレス負荷が成長後の恐怖記憶形成に、離乳後のストレス負荷が成長後の恐怖記憶の消去過程(消去試行ならびに消去記憶の想起)に影響を及ぼすこと、それには異なった神経回路の障害が関与している可能性を示した。 さらに、恐怖記憶の階層的情報処理機構について多角的に評価する目的で、恐怖記憶に対する行動応答異常を示す注意欠如多動性障害モデルおよび炎症性サイトカイン誘発モデルを用いて皮質-辺縁系シナプス応答との関連性を追究し、一部は論文として報告した。 これら平成24年度に実施した実験の一部は、平成25年度計画分を前倒しで実施したものである。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の実験結果に基づき、恐怖記憶の階層的情報処理機構という視点から、について幼若期ストレス負荷ラットを用いてさらにその神経機構をシナプス可塑性ならびにその分子機構をさらに追究する。ラットでは文脈的恐怖条件付けによって評価される恐怖記憶に基づく行動応答には、明らかな性差が認められることから、今後その脳内メカニズムについても検討を進める予定である。 また、恐怖記憶の階層的情報処理において、情動表出の最終出力部位として重要な中脳水道中心灰白質(PAG)に焦点を当て、研究を進める予定である。すなわち、PAGにおけるシナプス応答を電気生理学的ならびにcFos発現を指標とした免疫組織学的手法によって検討する。また 脳内微小透析法により、これら脳部位における興奮性および抑制性アミノ酸、さらにそれらの内因性調節因子としてのモノアミンの動態を明らかにする。 シナプス可塑性と関連しているNMDA受容体に焦点を当て、動物実験において消去を促進するNMDA受容体作動薬、あるいはその拮抗薬を用いて、受容体レベルでの分子機構を追究する。 これら分子機構が明らかになれば、その分子を標的とした治療薬の開発を目指すとともに、既存の抗不安薬、あるいはシナプス可塑性に影響を与える薬物(例えばserotonin reuptake inhibitor (SSRI)など)を用いて、PTSDの治療戦略を含めた薬理学的観点から検討し、最終的に臨床に還元できる研究成果を得ることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、以下の実験計画に沿って、前年度同様、実験動物に関わる諸経費、電気生理学的解析ならびに脳内微小透析法に関わる電極、プローベや分析カラムなどの消耗品の購入費として使用する。加えて、平成25年度は免疫組織学的解析に関わる抗体や消耗品の購入費用に充てる。また、学会出張及び論文作成等、平成24-25年度に得られた研究成果の発表に関わる諸費用として使用する予定である。 平成24年度に得られた結果に基づき、恐怖記憶の階層的情報処理機構における神経伝達物質の受容体ならびにその細胞内情報伝達機構を、特に性差に焦点を当てて追究する。具体的には、恐怖記憶の形成過程における1)皮質-辺縁系神経回路のシナプス可塑的変化、2)扁桃体(中心核)の役割、3)情動神経回路のシナプス可塑性と情動行動表出におけるPAGの役割について免疫組織化学的解析ならびに薬理学的解析する。また、4) 脳内微小透析法により、皮質-辺縁系神経回路およびPAGにおける興奮性および抑制性アミノ酸、さらにそれらの内因性調節因子としてのモノアミン神経系の役割を、特にセロトニン神経系に焦点を当てて検討する。 平成24-25年度に得られた研究成果は、日本神経精神薬理学会や日本薬理学会等の関連学会において報告し、最終的に英文論文として投稿する。
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