研究課題/領域番号 |
24590117
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
富樫 廣子 北海道医療大学, 薬学部, 教授 (20113590)
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研究分担者 |
柳川 芳毅 北海道医療大学, 薬学部, 講師 (20322852)
松本 眞知子 北海道医療大学, 薬学部, 助教授 (70229574)
平出 幸子 北海道医療大学, 薬学部, 助教 (50709277)
鹿内 浩樹 北海道医療大学, 薬学部, 助教 (00632556)
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キーワード | 恐怖記憶 / 情動行動 / シナプス可塑性 / 皮質-辺縁系 / 扁桃体 / セロトニン / サイトカイン |
研究概要 |
本研究は、脳機能発達期である幼児期の過度のストレスが、情動神経回路の形成不全あるいは情報処理機構の障害を引き起こし、成長後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)や不安障害などの精神神経疾患の易罹患性の背景になっているとの仮説に基づき、恐怖記憶の形成及び消去過程における神経機構を、恐怖刺激の入力部位である扁桃体(AMG)及び情動行動の最終出力部位である中脳水道中心灰白質(PAG)を含む階層的情報処理機構の視点から、ラットを用いて実験的に追究したものである。その結果、恐怖記憶の消去過程においては、単なる恐怖記憶の消去ではなく、消去記憶という新たな記憶が形成されることを、文脈的恐怖条件付け試験における行動応答と情動回路(皮質辺縁系)におけるシナプ伝達を同時に記録することによって、初めて報告した。すなわち、恐怖記憶の消去過程および想起時には、それぞれ海馬及び皮質前頭前野におけるシナプスの可塑的変化が重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、電気的及び化学的に神経を破壊したラット及び遺伝的に恐怖記憶形成障害を呈する注意欠如多動性モデルラットを用いて、恐怖記憶の形成には皮質-辺縁系が重要であることも明らかにした。また、恐怖記憶の形成における脳内サイトカインを介する新たな調節機構を示す知見を得た。 文脈的恐怖条件付け試験における行動応答に性差が認められるという実験事実に基づき、恐怖記憶の形成及び消去過程における神経機構の違いを雌雄差という視点から検討した結果、正中縫線核-海馬経路におけるセロトニン神経系を介するシナプス伝達調節機構の関与を示唆する結果が得られた。 これらの成果は、国内学会において発表し、論文として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年から25年度の実験計画に基づき、恐怖記憶の階層的情報処理機構について文脈的恐怖条件付け試験を用いて追究した。すなわち、恐怖記憶の獲得、再生ならびに消去過程(消去試行ならびに消去記憶の想起)の三つの側面から、海馬-皮質前頭前野(mPFC)神経回路のシナプス可塑的変化を電気生理学実験と行動解析を組み合わせた覚醒下における実験ならびに麻酔下における実験を行った。さらに、扁桃体刺激による影響を評価し、情動神経回路のシナプス可塑性と情動行動表出において扁桃体が抑制的に調節していることを明らかにしてきた。 H25年度はこれら階層的情報処理機構に関わる脳部位として、新たに正中縫線核-海馬経路に着目し、ストレスに対する情動応答における性差の脳内機構の違いを明らかにすることができた。さらに、情動行動の最終出力部位である中脳水道中心灰白質(PAG)に関する基礎的な検討を進めた。これら平成25年度に実施した実験の一部は、H26年度の実験計画を前倒しで実施したものであり、本研究課題を精神疾患における性差という視点から発展させたものである。今後、一部精神疾患の罹患率に認められる性差の生物学的基盤の解明への発展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成24-25年度の実験結果に基づき、恐怖記憶の階層的情報処理機構について幼若期ストレス負荷ラットを用いてさらにその神経機構をシナプス可塑性ならびにその分子機構から追究する。ラットでは文脈的恐怖条件付けによって評価される恐怖記憶に基づく行動応答には、明らかな性差が認められることから、今後その脳内メカニズムについてもさらに検討を進める予定である。 また、恐怖記憶の階層的情報処理において、情動表出の最終出力部位として重要な中脳水道中心灰白質(PAG)に焦点を当て、研究を進める予定である。すなわち、PAGにおける機能局在をシナプス応答を電気生理学的ならびにcFos発現を指標とした免疫組織学的手法によって明らかにする。また 脳内微小透析法により、これら脳部位における興奮性および抑制性アミノ酸、さらにそれらの内因性調節因子としてのモノアミンの動態を明らかにする。シナプス可塑性と関連しているNMDA受容体に焦点を当て、動物実験において消去を促進するNMDA受容体作動薬、あるいはその拮抗薬を用いて、受容体レベルでの分子機構を追究する。 さらに、シナプス可塑性を擾乱することによって、分子を標的を明らかにし、PTSDを含めたストレス性精神疾患の生物学的基盤の解明など、最終的に臨床に還元できる研究成果を得ることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度研究費は、主として電気生理学的解析に充てたため、消耗品関係の支出が計画より少なかった。また、研究成果の発表に関わる学会出張が国内学会にとどまったため、学会出張に充当する研究費が少なかった。 次年度の研究費は、実験動物に関わる諸経費、免疫組織学的解析に関わる抗体や消耗品の購入費用に充てる。加えて、平成26年度は、学会出張及び論文作成等、平成24-25年度に得られた研究成果の発表に関わる諸費用として使用する予定である。
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