研究課題/領域番号 |
24590118
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研究機関 | 城西国際大学 |
研究代表者 |
堀江 俊治 城西国際大学, 薬学部, 教授 (50209285)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | TRPV1 / TRPA1 / TRPM2 / 知覚過敏性 / 機能性ディスペプシア / 潰瘍性大腸炎 / 免疫組織化学 / ストレス |
研究実績の概要 |
機能性胃腸障害や炎症性腸疾患では消化管に異常な知覚過敏性が引き起こされる。この知覚過敏性は、知覚神経性の微小炎症や腸内細菌の浸潤に由来する微小炎症により、温度感受性受容体TRPチャネルの発現が増大するためではないかという作業仮説を検証している。本年度は、正常実験動物・大腸炎モデル動物における、およびヒトの胃腸標本におけるTRPチャネルの局在を検討した。また、TRPチャネルを介する消化管反応について検討を行った。 これらの研究成果の要点を以下の3点にまとめた。 1.実験動物の胃腸標本におけるTRPA1 発現神経線維について検討を行い、TRPV1 が発現していないTRPA1神経系の存在が明らかにした。胃腸系にTRPA1 チャネル発現神経が豊富に存在していることを示しており、これらが潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患の知覚過敏性において重要な役割を果たしていると推察された。TRPA1神経が活性化した際に生じる胃血流増大作用、血管透過性亢進や消化管運動促進も併せて見出した。 2.マイルドなストレス負荷マウスの消化管において、内容物の排出を担当する遠位結腸、直腸で TRPV1 を介する反応の増強が観察された。したがって、下部消化管肛門側ではストレスによって、TRPV1 の感受性が増大している可能性が示唆された。 3.消化管痛覚過敏性が惹起された大腸炎モデルマウスの結腸において、粘膜層においてのみTRPV1神経線維数の増加と非神経性TRPV1免疫陽性細胞(おそらくマクロファージ、樹状細胞)の発現を観察した。これら受容体の変化が知覚過敏性に関連しているものと考えている。健常人の大腸組織標本においてはTRPM2が主に上皮細胞に発現していることが明らかとなった。粘膜上皮のTRPM2は5-HTを多く含有する腸クロム親和性細胞に発現しているのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、ストレス・炎症時における温度感受性TRPチャネルの発現局在・発現量の変化の検討、およびTRPV1・TRPA1を介する生理反応の変化の検討であった。各項目について達成度を評価した。 1.ストレス負荷による摘出消化管標本の平滑筋収縮弛緩反応の変化:ラット・マウス摘出消化管(胃、回腸、結腸、直腸)標本を用い、TRPチャネル活性化薬の平滑筋反応の解析した。胃運動に関しては動物個体レベルの検討を行い、胃運動減弱モデルを作成した。胃運動減弱モデルを使ってTRPA1を介する反応の検討ができていない。 2.ストレス負荷による培養消化管粘膜細胞の消化管粘膜バリア能の変化:ストレス負荷モデル動物から作成された標本において、温度感受性受容体を介する消化管粘膜バリア能がどのように変化するかの検討が実施できなかった。 3.炎症性腸疾患の患者由来のヒト病理標本におけるTRPV1・TRPA1の局在変化:凍結切片は免疫組織科学的手法によりTRPV1およびTRPA1の染色に成功していない。検鏡、発現量・局在などの画像解析に関して病態モデル動物の際と同様に行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
補助事業時間の延長をして、上記のできなかった実験と次の研究に繋げる実験を行う予定である。 1.現在、病態モデルマウスから得られたTRPV1発現細胞について、フローサイトメーターを用いて免疫細胞の分子マーカーとの共発現を解析している。今のところ、二重染色の結果では、TRPV1 チャネル染色のために必要な細胞膜貫通処理の後、TRPV1 チャネルの存在は確認できるものの、表面抗原との共存を見出すことはできなかった。この点を改善して、TRPV1発現免疫細胞の特徴を明らかにしていく。 2.ヒト由来の正常消化管組織標本における免疫組織化学的検討を進めているが、現状、温度感受性TRPチャネルのうち、TRPM2のみよく検出されている。一方、TRPV1やTRPA1は未だ検出できていない。抗体の種類や適用条件を精査し、染色条件を確立する。 3.ヒト由来の正常組織標本で解析を行ったが、TRPM2に関して興味深い結果が得られた。炎症性腸疾患患者由来の消化管組織標本の数を増やし、十分な基礎検討を実施することが今後の課題である。これらの結果より、TRPM2の活性化によって腸クロム親和性細胞から放出されるセロトニンが、消化管粘膜血流、消化管運動異常、下痢、嘔吐などの消化管機能異常に関与していることが考えられるため、これら症状に関連する因子とTRPM2の共発現を解析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度までの研究で、健常人の大腸組織標本の免疫組織学的検討においては、温度感受性TRPM2が主に粘膜層の上皮細胞に発現し、粘膜固有層に一部発現していることを明らかにできた。 一方、当初の研究目的であった炎症性腸疾患患者大腸組織標本の免疫組織学的検討において、思ったほど温度感受性受容体局在の染色がうまく行っていない。この点について、平成27年3月末までにこの免疫染色が完成するように努力していく。ただし、平成26年度中に使用するためにいただいた科学研究費助成金を無理に使い切ることなく、この一連の研究を平成26年4月以降もさらに続行し、それらの成果を公表できるように、科学研究費助成金の一部を残すこととした。平成27年度に実施する検討結果に関して、本研究(課題番号24590118)の成果ともに考え合わせ、炎症性腸疾患における温度感受性受容体局在変化の意義を推察したい。
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次年度使用額の使用計画 |
助成申請当初計画は進行が少し遅れたが、おおむね研究の目的は達成できた。 平成26年4月以降も一連の研究をさらに続行し、未完成の炎症性腸疾患患者様腸検体の免疫組織学的検討を成功させるために、平成26年度で使用するためにいただいた科学研究費の一部を残し、平成27年度免疫染色のための実験動物費、理化学器具費、抗体・試薬費に使用する。また、その成果を国際学術誌や学術学会において発表するために用いる。
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