研究課題/領域番号 |
24590121
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
松尾 由理 北里大学, 薬学部, 講師 (10306657)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / プロスタグランジンE2 / EP受容体 / プロスタグランジンE合成酵素 / 炎症 / 神経変性疾患 / 神経細胞死 / ノックアウトマウス |
研究概要 |
我々はこれまでに、パーキンソン病モデルにおいてPGE2がドーパミン神経細胞死を促進することを明らかにしている。本研究では、その詳細な機序の解析、特に下流効果器の同定を試みている。まず、in vivo 6-OHDA投与マウスパーキンソン病モデルにおいて、黒質ドーパミン神経細胞の脱落が認められた。また、ロータロッド法による行動解析により、6-OHDA投与マウスでは四肢の運動障害が生ずることを検出した。さらに、黒質にてPGE2合成酵素がドーパミン神経細胞にて発現誘導することが明らかとなった。そこで、EP受容体発現細胞の同定や発現量の変動検討も試みたが検出出来なかった。次にin vitroでの下流機序の解明を行った。ヒトドーパミン神経芽細胞腫であるSH-SY5Y細胞を用いて、6-OHDA暴露による細胞死を検討したが、顕著な細胞死が認められなかったため、各種神経毒や神経細胞死を引き起こす物質にて検討を行ったところ、グルタミン酸暴露にて顕著な細胞死が認められた。グルタミン酸興奮毒性は、EP1-4受容体作動薬のうち、EP3受容体アゴニストによってのみ有意に悪化された。一方、EP3受容体作動薬による毒性促進作用はEP1-4受容体拮抗薬のうち、EP3受容体拮抗薬によってのみ抑制された。さらに各種阻害薬を用いて薬理学的検討を行ったところ、Gi蛋白質阻害薬である百日咳毒素により、EP3受容体作動薬の効果が抑制された。一方、Western blotの結果より、グルタミン酸とEP3受容体作動薬の併用はcaspase-3の活性化とBcl2の発現抑制を生じた。従って、EP3受容体活性化は、Gi蛋白質の活性化を介して神経アポトーシスを促進する可能性が考えられた。本研究でさらにパーキンソン病でのEP3受容体の役割が明らかになれば、EP3受容体がパーキンソン病治療の新たなターゲットになるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
6-OHDA投与パーキンソン病モデルの確立、入手したロータロッド機械での行動評価は行えている。しかし、EP受容体の発現変化や、発現細胞の同定には至っていない。これは今の所、EP受容体の優良な抗体が得られていないため、染色結果が曖昧であり、また非特異的な染色が見られるためである。発現量の変動については、今後定量的PCR法などを用いてmRNAの発現にて評価することも考えている。またEP受容体蛋白質の解析については優良な抗体を購入する必要がある。In vitroの結果については、ヒトドーパミン神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞にて各種検討を行ったが、in vivoで用いている6-OHDAにて顕著な細胞死が認められなかったため、他の神経毒、神経細胞死促進物質での検討を余儀なくされた。その結果グルタミン酸興奮毒性が妥当と考えられ、その後の薬理学的検討はある程度順調に出来ていると考えている。今後、中脳神経細胞の初代培養系での検討が必要と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
In vitroの解析においては、現在行っているSH-SY5Yヒト神経芽細胞腫での興奮毒性モデルに、EP3受容体作動薬の毒性促進機序の詳細な解析を続ける予定である。6-OHDA毒性へのEP受容体作動薬の効果の検討は、マウス胎児より中脳神経細胞を培養し検討する。EP3受容体の関与が認められた場合には、EP3受容体作動薬、拮抗薬の作用を、PGE2合成酵素(mPGES-1)欠損マウス由来中脳神経細胞と野生型マウス由来細胞とで比較検討することで、mPGES-1下流の効果器であるかについて検討する。 In vivoパーキンソン病モデルでの解析については、まずは、各種EP受容体mRNAの黒質での変動について定量的PCR法にて解析しつつ、各種EP受容体抗体を購入・検討し、優良なEP受容体抗体が見出せれば、黒質でのEP受容体蛋白質発現量の検討、発現細胞の同定を行う。また、EP受容体拮抗薬、或いはEP受容体欠損マウスを用いて、in vivoパーキンソン病モデルにおけるEP受容体の役割を明らかにする。EP受容体拮抗薬の作用が見出せれば、mPGES-1欠損型マウスでの作用を野生型マウスと比較し、mPGES-1下流効果器であるか、検討を加える。 本計画より、パーキンソン病におけるドーパミン神経細胞の脱落におけるmPGES-1とEP受容体の関係が明らかになるものと確信している。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究ではin vivoパーキンソン病モデルのために、自家繁殖したmPGES-1欠損型マウス、EP3受容体欠損型マウスとその野生型マウスの維持のための床敷きや餌の費用、新たに購入するマウス、ラット等の動物の費用が必要である。さらに、より良いEP受容体抗体、更なる検討を行うための各種抗体の購入が必要である。PGE2量、サイトカイン量の測定には、EIAキット、ELISAキットを購入する。In vitro培養実験では、動物の他、各種培養関連器具と試薬の購入を要する。さらに、定量的PCR試薬の購入、各種生化学的、分子生物学的、薬理学的試薬の購入を予定している。また解析のための顕微鏡やノートパソコンの購入を考えているが、大型機器の購入の必要はないと考えている。結果公表のため、学会発表の旅費・参加費、さらに論文作成のための校正費、投稿手数料等を要する。
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