研究課題/領域番号 |
24590121
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
松尾 由理 北里大学, 薬学部, 講師 (10306657)
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キーワード | パーキンソン病 / プロスタグランジンE2 / EP受容体 / プロスタグランジンE合成酵素 / 炎症 / 神経変性疾患 / 神経細胞死 / ノックアウトマウス |
研究概要 |
我々はこれまでに、パーキンソン病モデルにおいてPGE2がドーパミン神経細胞死を促進することを明らかにしている。本研究では機序の解析を試みている。EP受容体については、発現等の検討を試みたが検出出来なかったため、PGE2合成酵素mPGES-1の欠損型マウスを用いて、PGE2の重要性をさらに検討した。6-OHDA投与マウスパーキンソン病モデルにおいて、Rotarod(購入機器)法による四肢の行動異常が、mPGES-1欠損型では野生型に比べ軽度であったことから、mPGES-1から誘導されるPGE2が神経学的機能障害にも寄与することが明らかとなった。さらに、ヒトドーパミン神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いて下流機序の解明を行った。6-OHDA暴露では顕著な細胞死が認められなかったため、グルタミン酸興奮毒性にて検討した。各受容体作動薬、拮抗薬の結果より、EP3受容体が興奮毒性に寄与することが明らかとなった。EP3毒性は、Gi蛋白質阻害薬により抑制された。そこでGiの下流シグナルであるプロテインキナーゼA(PKA)の阻害薬H89並びにその非活性類似体H85の効果を検討した。EP3毒性はH89の共添加により、濃度依存的且つ顕著に促進されたのに対し、H85では有意な促進は見られなかった。また、グルタミン酸によるcaspase-3の活性化もH89でのみ有意に促進された。さらに、グルタミン酸とEP3作動薬併用により顕著なcaspase-9の活性化とBcl-2の発現抑制が生じた。以上より、EP3活性化は、Gi蛋白質の活性化を介してPKAを不活性化し、Bcl-2の不活性化に続くcaspaseカスケードの活性化により神経アポトーシスを促進する可能性が考えられた。mPGES-1ならびにEP受容体の役割がさらに明らかになれば、パーキンソン病治療の新たなターゲットになるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
6-OHDA投与パーキンソン病モデルの確立、入手したロータロッド機械での行動評価は行えている。EP受容体の関与については、まだあまり検討が進められていないが、上流酵素であるmPGES-1の関与については検討がさらに進められ、mPGES-1から産生されるPGE2の神経機能障害における重要性が明らかになってきた。現在これについては投稿準備中である。EP受容体については、新しく抗体を入手して検討を行ったが良好な結果が得られなかった。ヒトドーパミン神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞において、6-OHDAによるin vitroでの毒性は顕著に見られず、その代わりにグルタミン酸による毒性評価とEP受容体の関与について検討を進めた。SH-SY5Y細胞は再現性の良い毒性評価が可能であり、EP3受容体アゴニストによる毒性機序の薬理学的検討は概ね順調に出来ている。また、毒性評価だけでなく、タンパク質やRNAを抽出することで、より詳細な毒性機序の解析が可能である。現在、中脳神経細胞の初代培養系での検討も始めている。
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今後の研究の推進方策 |
In vivoの解析においては、さらにmPGES-1の役割について、ドーパミン神経細胞死の機序を、in vitroの結果をふまえながら解析する。即ち、mPGES-1がcaspaseやBcl2などのアポトーシス関連タンパク質の発現に及ぼす影響を検討する予定である。また、グリア細胞の活性化や、各種サイトカインの産生について、qPCR法にて解析し、mPGES-1の毒性機序を明らかにする。各種EP受容体mRNAの黒質での変動についても、qPCR法にて解析する。さらに、EP受容体拮抗薬、或いはEP受容体欠損マウスを用いて、ドーパミン神経の脱落や行動障害におけるEP3受容体の役割について、免役染色法、rotarod法により解析することで、in vivoパーキンソン病モデルにおけるEP受容体の役割を明らかにする。 In vitroの解析においては、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Yでの興奮毒性モデルにて、EP3受容体作動薬の毒性促進機序の詳細な解析を続ける予定である。6-OHDA毒性へのEP受容体作動薬の効果の検討は、マウス或いはラット胎児より中脳神経細胞を培養し現在検討を始めている。EP3受容体の関与が認められた場合には、SH-SY5Y細胞で認められたEP3受容体作動薬による毒性機序について、6-OHDA刺激においても同様毒性の機序が認められるか否か検討する。EP受容体拮抗薬の作用をmPGES-1欠損マウス由来中脳神経細胞と野生型マウス由来細胞とで比較検討することで、mPGES-1下流の効果器であるかについても検討する。 本計画より、パーキンソン病におけるmPGES-1とEP受容体の関係が明らかになるものと確信している。
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次年度の研究費の使用計画 |
EP受容体の抗体を幾つか購入したが、抗体の特異性が弱く、免疫染色での検討には不適であった。このため、別の会社の抗体等を購入予定であるが、また同様に不適な抗体を購入する可能性がある。現在、免疫染色可能な抗体を、ロット番号も含めて、使用実績を慎重に調べており、購入抗体の選定のため使用が遅れ、次年度使用学が生じた。 本研究では自家繁殖したmPGES-1欠損型マウス、EP3受容体欠損型マウスとその野生型マウスの維持のための床敷きや餌の費用、新たに購入するマウス、ラット等の費用が必要である。また、EP受容体の発現細胞同定のための、免疫染色可能な抗体を購入する。EP受容体やサイトカイン等のmRNA発現解析のため、primer、mRNA抽出、cDNA作成、qPCRのためのキットを要する。ドーパミン神経細胞の脱落の解析には、チロシン水酸化酵素(TH)抗体等の、各種抗体の購入が必要である。PGE2量、サイトカイン量の測定には、EIAキットを購入する。In vitro培養実験では、動物の他、各種培養関連器具と試薬の購入を要する。さらに、各種生化学的、分子生物学的、薬理学的試薬の購入を予定している。次年度が最終年度となるため、結果公表のため、学会発表の旅費・参加費、さらに論文作成のための校正費、投稿手数料等を要する。
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