我々はこれまでに、パーキンソン病モデルにおいてPGE2がドーパミン神経細胞死を促進することを明らかにしている。そこで、EP受容体の発現等の検討を試みたが検出出来なかったため、PGE2合成酵素mPGES-1の欠損型マウスを用いて、PGE2の重要性をさらに検討した。6-OHDA投与マウスパーキンソン病モデルにおいて、WTの黒質ではPGE2量が増加したが、mPGES-1欠損型マウスでは変化しなかった。一方、PGI2やTXA2の産生量は両遺伝子型間で違いはなかった。黒質のドーパミン神経脱落、ドーパミン量の低下、ドーパミン神経軸索の障害、さらにはRotarod(購入機器)法による四肢の行動異常が、mPGES-1欠損型マウスでは野生型に比べ軽度であった。次に、詳細な機序の解析のために、ヒトドーパミン神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いて、受容体の関与を検討した。6-OHDA暴露は細胞死を誘導し、これがEP1,4のアンタゴニストでは抑制されなかったのに対し、EP3アンタゴニストでのみ抑制された。また、6-OHDAによる毒性を、EP1-4アゴニストのうちEP3アゴニストのみ増悪した。今後、アポトーシス関連蛋白質の関与を検討すると共に、野生型及びEP3欠損型マウスの中脳ドーパミン神経細胞初代培養系を用いて、EP3受容体の関与を検討する。現在、in vivo 6-OHDA投与マウスパーキンソン病モデルにおいて、黒質のドーパミン神経脱落や行動障害について、EP3欠損型マウスと野生型マウスで比較検討している。本研究より、mPGES-1により産生したPGE2はEP3受容体に作用することで、黒質の神経変性を促進し、行動障害に寄与する可能性が示唆された。mPGES-1ならびにEP受容体の役割がさらに明らかになれば、パーキンソン病治療の新たなターゲットになるものと期待される。
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