研究課題/領域番号 |
24590126
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
岡 淳一郎 東京理科大学, 薬学部, 教授 (40134613)
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キーワード | うつ病 / 高血圧 / GLP-2 / ストレス |
研究概要 |
視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系亢進状態を維持させるためマウスに副腎皮質刺激ホルモン(ACTH: 0.45 mg/kg/day)を14日間投与して作製した治療抵抗性うつ病マウスを用いて、強制水泳試験後に脳切片標本を作製し、免疫組織化学的手法により検討した。その結果、glucagon-like peptide-2 (GLP-2)投与によりHPA系の上位中枢である室傍核(PVN)での活性化したACTH放出ホルモン(CRH)産生細胞が対照群と比較して減少し、PVNを抑制する背内側核(DMH)では活性化したGABA作動性神経の増加がみられた。GLP-2受容体が存在するDMHからの抑制性投射の増強によりPVNでのCRH産生が抑制されてHPA系の過活動が抑制されたと考えられる。さらに、海馬歯状回顆粒細胞層下帯(SGZ)での増殖細胞数及び神経前駆細胞数の有意な増加がみられ、GLP-2が神経新生を促進することが示唆された。 つぎに、高血圧症状へのGLP-2の降圧作用機序を解明する目的で、高血圧自然発症ラット(SHR)を用いて、高血圧に対するGLP-2の脳内作用部位を免疫組織化学的に同定した。その結果、静脈内投与したGLP-2は迷走神経節細胞を刺激して脳内血圧調節に関わる孤束核(NTS)でカテコラミン性ニューロンを抑制し、GABA性ニューロンの活動を亢進させることにより、その投射先である橋及び吻側延髄腹外側核(RVL)ではカテコラミン性ニューロンを抑制した。これにより、脊髄中間外側核への興奮性入力が減弱して交感神経が抑制され、血圧が降下したと考えられる。 GLP-2を新規抗うつ薬候補とする第1段階として、GLP-2に添加剤と界面活性剤を加えて製剤化した溶液をラットに経鼻投与した結果、強制水泳試験で有意な抗うつ様作用が示された。現在、臨床に適用可能な経鼻投与用製剤の特許出願準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の実績報告書では、平成24年度の実験を継続するとともに、ストレス脆弱性・HPA系亢進モデル動物を用いて 1)海馬における神経可塑性(形態変化、神経新生等)とGLP-2の影響、及びBDNF mRNA量の変化を調べる。 2)情動形成に関与する扁桃体のスライス標本を用いて、シナプス伝達基本特性及びシナプス可塑性(LTP)等の電気生理学的検討を行う。 3)トランスレーショナル・リサーチの第1段階として、GLP-2末梢投与による中枢移行を目的とする製剤化と、抗うつ作用発現の検討 4)高血圧症状へのHPA系の関与とGLP-2作用の解明 を検討することを目的とした。現在まで、1)、3)及び4)に関して、上述のようにほぼ目的を達成し、その1部は学術誌に掲載された (Life Sciencesh 93(2013) 889-896)。2)に関しては、現在実験が進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度及び25年度の実験を継続するとともに、さらに下記のような展開を行う。 1)GLP-2がもつ細胞増殖作用やアポトーシス抑制作用に注目して、脳神経回路の維持・再構築に関する実験を行う。 2)GLP-2の抗うつ様作用及び降圧作用に、脳内NO産生が関与するか否か、関与する場合にその部位を同定する。 3)トランスレーショナル・リサーチの第2段階として、GLP-2誘導体を用いた末梢投与による抗うつ様作用発現を検討し、特許出願を行う。 4)既存抗うつ薬の作用機序とは異なるGLP-2の有効性に基づいた治療抵抗性うつ病の治療戦略を、他剤との併用を含めて考案する。 5) 得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品費のうち、実験動物及び試薬等を効率良く使用することで節約することができたため。 消耗品費(実験動物、試薬、器具)での使用がほとんどであるが、国内学会参加のための旅費、実験結果の論文原稿のための英文校正費などにも使用する。
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