研究実績の概要 |
前年度までの実験動物を用いた研究により、glucagon-like peptide-2 (GLP-2)の抗うつ様作用とその作用機序が明らかになり、学術雑誌で報告した(Neuroscience 294, 156-165, 2015)。既存の抗うつ薬とは異なる作用機序で、治療抵抗性うつ病モデル動物にも有効なことから、新規抗うつ薬となることが期待できる。GLP-2はペプチドであるため、これまでの動物実験では直接脳内に注入する脳室内投与法を用いたが、臨床では使用できないため、末梢投与で分解を受けずに脳内に移行させる方法を考案する必要がある。分子量の大きい化合物を脳内移行させる手段として、経鼻投与法が近年注目されている。前年度はGLP-2に添加剤と界面活性剤を加えて製剤化した溶液をラットに経鼻投与して抗うつ様作用がみられることを報告した。今年度は、次の段階として経鼻投与により脳内移行をするGLP-2誘導体を合成し、その安定性、脳内移行性、抗うつ様作用について検討した。その結果、GLP-2の安定性が増し、脳内に移行して中枢作用を示すペプチド付加体を得ることができた。この付加体は、GLP-2に限定せず他の中枢作用性ペプチドにも適用可能なことから、国内特許を出願し、現在は国際特許の出願を準備中である。今後は、これまで我々が中枢作用を報告してきた他のペプチドにも適用して中枢作用を調べ、GLP-2誘導体とともにペプチド医薬品の開発を推進する予定である このほか、GLP-2に学習改善作用と抗不安作用があることを報告し(Neuropeptides 49, 7-14, 2015)、またGLP-2の抗うつ様作用発現に脳内で産生されるNOが抑制的に働くこと、一方で降圧作用の一部には脳内NOが関与することを明らかにした。
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