1. 前年度の結果から、インスリン抵抗を呈したモデル動物において、内皮細胞のインスリン抵抗の形成とAkt/eNOSシグナル伝達が抑制されることにより、血管内皮障害を増悪させていることが明らかとなった。そこで本年度においては、この様な病態時においての細小血管、大血管におけるAkt/eNOSシグナル伝達異常を誘発する原因物質の同定を試みた。糖尿病群より抽出した血小板を正常血管に処置することによって、コントロール群由来の血小板処置群と比較し、ACh 誘発内皮依存性弛緩反応の減弱、並びに、無処置群と比較し eNOS のSer1177 部位のリン酸化タンパク発現低下認められた。以上の結果は、糖尿病時の血中における血小板は、内皮細胞機能を低下させ、その機序として、上述のAkt/eNOS の活性低下を誘発していることを示唆する。血小板の正常化は、インスリン抵抗時における内皮機能障害においての新しい治療戦略を提唱する。 2.前年度において、インスリン抵抗状態によって血圧の増加やウリジンアデノシンテトラフォスフェート(Up4A)による血管収縮異常が認められたため、更にいくつかのアゴニストによる細小血管、大血管収縮異常についても検討を行った。5-HT2A受容体agonistによる収縮反応は、病態モデルの頸動脈にて増大し、p38 MAPK 阻害薬、Rho kinases 阻害薬処置により、コントロール群とほぼ同じ程度に回復した。また、5-HT transporter (SERT) 阻害薬処置は、5-HTによる収縮反応は両群共に増大した。以上の結果から、インスリン抵抗時において、5-HT収縮が増大し、これには平滑筋におけるSERT活性あるいは、5-HT2A受容体活性化以降の機構が関与している可能性が示唆された。以上の研究から、内皮細胞におけるインスリン抵抗は、異常血小板の増加、GRK2活性の亢進によって誘発され、これらはアンジオテンシン阻害薬、PTP1B inhibitor や、GRK2の抑制によって改善させることができる新知見が得られた。
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