研究課題
リゾホスファチジン酸(LPA)は多様な生理活性を示す脂質メディエーターであり、その作用はLPA受容体(LPA1~LPA6)を介して生じる。これまでLPAシグナルががん発生・増殖・進展に関与していることが示唆されており、がん治療の新規標的と考えられている。しかしながら、LPAシグナル変動とがんの関連について、その詳細は未だ不明である。本研究では、われわれが見出した4種類のLPA1変異体(Phe295Ser、Pro308Ser、Ile310Thr、Tyr311His)の機能解析を行った。また、LPAの分解により産生される脂肪酸が卵巣がん細胞の成長に関わることを見出した。(1)変異体の機能解析;4種類のLPA1変異体はいずれもcAMP産生抑制作用を示さないか、極めて弱い作用を示すのみであった。Rhoの活性化の程度も野生型より弱いものであった。Ca動員作用はPhe295Ser、Pro308Serは野生型と同様の反応を示したが、Ile310ThrおよびTyr311Hisでは野生型よりも低いものであった。Pro308SerおよびTyr311HIsの発現は野生型のそれよりも低かった。これらのことから、LPA1変異体は発現レベル、細胞内分布に異常が生じ、情報伝達も破綻していることを示唆している。(2)脂肪酸の作用解析;卵巣がん細胞HNOAは無血清下で培養すると細胞死を示す。LPAのみならず、その構成成分であるオレイン酸を加えると、細胞死が抑制された。さらにHNOA細胞に[3H]-LPAを加えると、約1時間以内にその80%以上が[3H]-オレイン酸に変換されることが分かった。細胞膜上にLPAを分解するリパーゼ活性が存在すること、産生された脂肪酸が細胞成長に影響することが示唆された。
3: やや遅れている
LPA1変異体による情報伝達系活性化の解析はほぼ終了したが、C末端領域に結合する分子の単離同定は一時中断した。これはいくつか同定した分子のいずれもが特異的結合を示す結果が得られなかったためである。また、本実験遂行中に、LPAの分解がメディエーター産生機構であるという、新規脂質情報伝達系を示唆する結果を得たため、これに関する実験を進めたことが理由である。
LPA1変異体による情報伝達系活性化や細胞内分布に関して論文を作成する。今期新たに明らかにした、新規脂質情報伝達系の解明を進める。具体的には、LPA分解酵素の単離同定である。
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Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 439 ページ: 280-284
10.1016/j.bbrc.2013.08.041.