研究課題
本研究は、記憶が失われるという現象、すなわち”忘却(消去)”の分子・シナプス機構を解明することを目的とするものである。学習行動の指標としては瞬目反射条件付けやモリス式水迷路試験を用い、Tetシステムやなどの可逆的遺伝子操作や薬理的処置を組み合わせた革新的な手法により実験を遂行する。本年度においては、加齢による記憶のこれまで適応が困難であった幼弱マウスに瞬目反射条件付けを行う手法を開発した(Miyata & Kishimoto et al., 2011)。この手法を用いて、野生型マウスに生後2週目で学習を行わせ、様々な薬理学的あるいは遺伝学的処置によりadult(生後8週目)になってからその記憶が保持されているか、また改善されるかどうかを確かめた。また、8週齢の野生型マウスやアルツハイマー病モデルマウスに対し、遅延課題およびトレース課題を条件づけ、記憶を成立させる。その後生涯にわたって飼育を行い、それぞれの課題に対し3か月後、6か月後、1年後、1年半後の4時点でどれだけ長期記憶が保持されているかをテストした。この実験により、加齢によって、手続き的記憶である遅延課題と宣言的記憶であるトレース課題のいずれがより早く忘却しやすいかを調べた。次に違う個体群に対して学習成立後様々な薬物の投与や遺伝子制御(シナプス可塑性に関与する分子を発現)により、このlife spanにわたる長期記憶の消失に対して抵抗性を生じさせるかどうかを確かめた。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた光工学的手法の導入は、今年度の時点で、予算等の理由により実現できていないが、Tetシステムを用いた脳部位選択的遺伝子ON/OFF制御による記憶•忘却の解析は順調に進んでおり、この結果の一部は現在雑誌にrevise中である(J. Neurosci.)。また、当初H26年度に予定していた、脳病態に起因する記憶消去メカニズムの解明については、今年度前倒しで実験を開始しており、学習獲得障害と忘却の亢進のいずれが先に出現するかについて解答を得つつある。このように、全体としては実験計画はおおむね順調に進行している。
H25年度までに得られた知見を元に、今年度は特に様々な脳病態モデルマウスを用いて、消去の分子メカニズムに切り込んで行く。さらに、薬物投与により、消去の異常が回復するかについても検討を行う。
当初購入して使用する予定であったモデルマウスが一部譲渡によって入手できたことから、当該年度においては無理に使用することを避け、次年度における解析装置に充当したことが一因である。次年度においては、本研究の目的である、記憶の消去をより網羅的に解析できる行動試験装置もしくは、高額の予算を必要とする光工学システムの構築に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
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