研究実績の概要 |
記憶の消去に特に焦点を当て、いくつかのモデル動物を用いてその分子メカニズムの解明を目指した。特に、記憶の消去に重要であると考えられている内在性カンナビノイド系に着目し、2-AG(2-arachidonoylglycerol)がその責任分子であるか否かを2-AG分解酵素欠損マウス(MGL-KOマウス)により様々な行動課題(モリス式水迷路試験、文脈型恐怖条件づけ、水探索学習試験、瞬目反射条件づけ)を用いて検討した。その結果、モリス式水迷路試験の参照記憶において、MGL-KOマウスは野生型に比し、有意に早い学習の消去を呈すことを見出した。これは、海馬依存性学習の忘却を制御する内在性カンナビノイド系に(少なくとも部分的には)2-AGが重要な役割を果たすことを示すものである。他方、海馬依存性の瞬目反射条件づけや文脈型恐怖条件づけ、水探索学習試験の消去過程においては、MGL-KOマウスで有意な変化は見られなかった。そのため、2-AGが積極的に関与する消去機構は、(一般に同じ海馬依存性と考えられている課題においても)強く課題の種類に依存していることが示された。以上の結果については、オープンサクセス誌Frontier in Behavioral Neuroscienceに掲載が確定している。また、小脳依存性の行動課題についても調べたところ、MGL-KOマウスでは消去が亢進していることが示され、これは一部の海馬依存性課題への寄与と逆の役割を演じていることが示され興味深い。この結果は、rat において、CBA1アゴニストであるWIN55,212-2を投与すると extinctionの障害が起きるという報告 (Steinmetz and Freeman, Learn Mem, 2011)と矛盾しないものである。また、可逆的遺伝子ON/OFFマウスを用いて、小脳依存性学習の消去過程を調べたところ、ある種の遺伝子がこの消去過程に重要であることが示唆された。現在薬理的方法により、この現象をさらに確認中である。
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