研究課題/領域番号 |
24590134
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齋藤 一樹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特任准教授 (10192585)
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キーワード | EGFレセプター / 二量化阻害ペプチド / レセプター創薬 / スクリーニング / キャピラリー電気泳動 / 質量分析 |
研究概要 |
これまで、申請者は、自ら明らかにした上皮成長因子(Epidermal Growth Factor; EGF)レセプターの細胞外領域とリガンドEGFとの複合体の結晶構造にもとづき、二量体界面に存在する“二量化アーム”の先端ループ構造を模倣した環状ペプチドが10μM前後の濃度でEGFレセプターの活性化を阻害することを見出したので、本研究では、その環状ペプチドの構造を改変してより強力な阻害剤を設計することを目的としている。 昨年度は、質量分析計の故障により、当初計画で本年度以降に行うはずであった環状ペプチドの一連のアナログ作りの一部を先行して行った。その結果、EGFレセプターの二量化・自己リン酸化・細胞増殖のいずれの活性においても、Dアミノ酸で構成し配列を逆にしたレトロインバーソ体がもとの環状ペプチドと同程度の阻害活性を示したことから、この環状ペプチドは、主鎖の向きではなく側鎖の配置が認識されて阻害活性を示していることがわかった。 本年度は、まず、質量分析計の修理を完了させ、昨年度行うはずだったキャピラリー電気泳動(CE)と質量分析計(MS)を組み合わせたスクリーニング手法を確立した。この手法を用いれば、タンパク質の酵素消化物などのペプチド混合物の中から、標的タンパク質に親和性のあるペプチド断片のみを拾い出してくることができる。実際に、ウシ血清アルブミンのプロテアーゼ消化物の中から、カルモデュリンに結合する3種類のペプチド断片を拾い出すことに成功し、それらのペプチドがカルモデュリンに対して8~147μMの親和性を持っていることを表面プラズモン共鳴測定で確認した。そこで次に、このCE-MSによるスクリーニング手法を用いて、環状ペプチドのどのアミノ酸残基の側鎖がEGFレセプター阻害活性を担っているのかを絞り込むことにした。現在、環状ペプチドの一部をランダムにアラニン残基に置換したライブラリーの合成を完了し、CE-MS測定に供する段階に来ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、質量分析装置の故障により当初計画の流れを変更しなければならなくなったが、本年度に行う予定の実験の一部を昨年度に前倒して行い、質量分析装置の修理を完了した後に昨年度行う実験を本年度に行った。順序は逆になったが、本年度にはその質量分析装置を用いたスクリーニング手法を確立することができ、3年間の基盤研究(C)全体からみれば滞りなく研究を推進できたと言える。特に、本年度の半ばにやっと修理部材を調達し質量分析計を修理することができてからの研究の進展は目覚ましく、CE-MSを用いたスクリーニング手法を確立して本年度内にELECTROPHORESIS誌にフルペーパー1報を発表できたことは、全体としての研究達成度が依然としておおむね順調に進展していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度にCE-MSを用いたスクリーニング手法を確立できたので、平成26年度は環構造を構成するアミノ酸の側鎖を変化させた阻害環状ペプチドアナログのライブラリーを調製してそのスクリーニング手法に適用することにより、阻害活性を担うアミノ酸残基の同定およびさらに強い阻害活性を示すアナログの探索を重点的に研究を行ってゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
修理部材の海外調達に時間がかかり、質量分析装置の修理を終えたのが本年度の6月末頃になってしまった。そこで、阻害環状ペプチドのアナログ作りの一部は前年度に行っていたので、7月以降は、カルモデュリンをモデル標的として、まずCE-MSを用いたスクリーニング手法の確立を行ってしまうことを優先させた。そのため、ライブラリー調製のためのペプチド合成やレセプター調製のための細胞培養は最小限のアクティビティとなり、当初計画よりも研究費の執行が少なくなった。 本年度までに、CE-MSを用いたスクリーニング手法を確立できたことにより、次年度は実際のEGFレセプター阻害ペプチドのスクリーニング実験に集中することができる。特に、スクリーニング標的となるEGFレセプターの細胞外領域の調製は費用と時間がかかるため、そちらに研究費を集中的につぎ込み短期間で成果が得られるようにする予定である。
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