研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、インフルエンザウィルス由来の金属酵素RNAポリメラーゼ内のエンドヌクレアーゼを標的として、その活性部位の金属イオンにキレートし阻害することで抗インフルエンザ薬になり得るジケト酸誘導体の構造基盤医薬品創製である。我々は、分子ドッキングにより強い阻害作用を示すと予測されたジケト酸誘導体を設計し、その詳細をすでに論文にて報告している。そこで平成24年度では、その分子設計指針に基づいたジケト酸誘導体の合成と酵素阻害能評価,及び酵素の結晶化とX線結晶構造解析を行った。水素結合供与体である84位のアルギニンに着目し,水素結合受容体としてニトロ基あるいはカルボキシル基をもつアセトフェノン誘導体,あるいは鈴木宮浦カップリングにより得たビフェニル誘導体に対してクライゼン縮合によりシュウ酸ジエチルを導入後,酸で加水分解することにより水素結合受容基を持つフェニルあるいはビフェニルジケト酸誘導体を得た。これらの化合物に関して,大量発現系から分離精製して得た酵素のエンドヌクレアーゼ活性に対する阻害能を検討した。基質として一本鎖DNAを用い,酵素反応による環状DNAから鎖状DNAへの形態変化をアガロースゲル電気泳動にて可視化することで,化合物の濃度依存的阻害能を評価した。合成した化合物の中で,カルボキシル基をもつビフェニルジケト酸が最も阻害能が高く,得られたジケト酸誘導体のIC50値は,分子ドッキングで得られた結合エネルギーと良い相関が見られ,84位のアルギニンに着目した分子設計が適切であることがわかった。また,H1N1株のエンドヌクレアーゼの結晶化を行ったところ,Mgイオン存在下で単結晶を得,3.1オングストロームの分解能で構造解析することが出来た。その構造は既報のH5N1株由来の構造とほぼ同一で,一つのMgイオンにアスパラギン酸とグルタミン酸が配位していることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
新規ジケト酸誘導体の合成,酵素の大量発現系の構築,酵素阻害アッセイ系の確立,酵素の結晶化とそのX線結晶構造解析を行うことが出来た。SBDDに基づいて合成したジケト酸誘導体の酵素阻害能は,分子ドッキングの予想通り強いものであった。よって,適切なSBDDが行われたと考えている。また,阻害剤フリーではあるが,酵素の結晶構造が得られた。従って,当初の計画通りおおむね順調に進展していると考えている。
1)酵素阻害能を増強させるべくジケト酸誘導体のSBDDと合成,酵素阻害能の評価を引く続き行う。とくに,ジケト酸と酵素表面の隙間を埋めるよう最適化を行う。また,得られたジケト酸誘導体の単結晶構造解析を行うことで,分子構造のキャラクタリゼーションを行う。2)ジケト酸誘導体は酵素の活性部位において2つのMnイオンにキレートすると考えられるので,Mnイオン,ジケト酸誘導体及び酵素の共結晶化を行う。
化学合成用試薬購入費,酵素発現・精製用試薬購入費,酵素阻害活性測定用試薬購入費,結晶化用試薬購入費,論文投稿費,及び旅費として研究費を使用する。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件)
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