我々はノビレチンに代表されるポリメトキシフラボンがMMP-9の産生抑制活性を有することに着目し、後発白内障や糖尿病網膜症などの眼疾患の薬物治療や予防への応用を念頭に、ポリメトキシフラボン誘導体の効率的合成法の開発と構造活性相関研究を展開してきた。 最終年度は、まず前年度に合成した7-デメチルノビレチンについて、ヒト水晶体上皮細胞株に対して細胞毒性を示さないことを確認し、その他のノビレチン代謝物と同様にヒト水晶体上皮細胞株やヒト網膜ミュラー細胞におけるMMP-9の産生抑制活性を検証した。また、A環7位に炭素数の多いアルキル鎖を導入した誘導体については現在、細胞毒性、薬理活性、血液網膜関門透過性について精査している。この他、B環部分をベンゼン環からフラン環に改変した新規フラボノイドアナログを合成し、細胞毒性をほとんど示さないことをLDHアッセイによって確認した。また、ヒト網膜ミュラー細胞におけるポリメトキシフラボンによるMMP-9の産生抑制の機構を解明するための研究も展開した。その結果、ノビレチンがヒト網膜ミュラー細胞においてホルボールエステル(PMA)の刺激によって誘導されるproMMP-9及びMMP-9 mRNAの発現を濃度依存的に抑制すること、ノビレチンはPMAによって誘導されるPI3キナーゼの一種であるAktのリン酸化を抑制するものの、ERK、p38、JNK1などのMapキナーゼのリン酸化には殆ど影響を及ぼさないことが判明した。まだ全容解明までの道のりは遠いが、少しずつ作用機序も明らかになりつつある。 研究期間全体を振り返ると、類縁体の効率的合成法の開発やアッセイ系の確立などの基礎研究に存外に時間がかかってしまい、臨床応用までは十分には踏み込めなかったものの、予防も含めた薬物治療への展開のために必要な化学的及び薬理学的知見のかなりの部分を蓄積することができた。
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