研究課題/領域番号 |
24590152
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
長岡 康夫 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (90243039)
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研究分担者 |
服部 喜之 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (90350222)
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キーワード | ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤 / HDAC / ナノ粒子 / EPR効果 / PEG / Vorinostat / プロドラッグ / SAHA |
研究概要 |
我々は抗がん剤としてのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDI)候補化合物の創製と探索を行うと同時に、HDIのエピジェネティックな遺伝子発現制御効果を利用した機能分子の創製に取り組んできた。今後HDIが固形がんを標的とした抗がん剤として広く適用されるためには、現状の問題点を克服する、新たな展開が必須となる。本研究では、本剤の弱点である血中安定性の改善とEPA効果の併授を期待した、高分子キャリア-HDI複合体を合成し、その効果を評価すること、また、その発展型として、HDIのがん細胞特異的な遺伝子発現増強効果を加味した、高分子遺伝子キャリア-HDI複合体による、がんの遺伝子治療との相乗効果の可能性を探ることを目的としている。 前年度の平成24年度には高分子キャリア-HDI複合として、平均分子量が約40,000のポリエチレングリコール4arm-PEGを臨床で利用されているHDIである、Vorinostat (SAHA)に縮合させた4arm-PEG-SAHAを合成しその活性と物性を評価をした。4arm-PEG-SAHAは培養したがん細胞に対して、SAHAのみの時に比べて高い細胞毒性を示し、in vitroでの効果が認められた。しかしながら、4arm-PEG-SAHAの血清中の安定性を評価したところ、半減期1分以内で加水分解されてしまうことが明らかになり、注射剤としての本化合物の利用が困難であることが示唆された。そこで、血中安定性を増すために、加水分解の反応部位であるエステル結合を、分子集合により形成されるミセルの内側に配置できるような直鎖PEG-SAHAを合成した。さらに直鎖PEG-SAHAの限界ミセル濃度を下げるために、2分子をジスルフィド結合でつなぐ工夫を施した。その結果、血清中の半減期を12時間以上という大幅な改善に成功した。次年度は、さらに限界ミセル濃度を下げると工夫をすると共に、生理活性についても検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初に分子設計した製剤には、中程度に有効な効果が認められたのだが、血清中での安定性が悪く、これ以上の効果の上昇は期待できないと判断した。その後、分子設計段階からの再検討を行ったことから、予定より進行が遅くなった。しかしながら、現在は血清中の安定性が格段に上昇した製剤の合成に成功しており、この製剤を用いた薬理活性試験が可能となった。また、分子のアミノ酸部分の構築からPEG化までの製剤分子の合成工程を、固相合成により行うことが可能となり、短時間で様々な誘導体が合成できるようになっている。そのため、アミノ酸配列を中心とした分子構造の最適化が迅速に行える。これらの改善点が加わったことで、今後は計画の遅れを巻き返せるものと確信している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に合成した4-arm-PEG-SAHAは、培養がん細胞に対して、有意な増殖抑制活性を有し、有効であると思われたが、血清中での安定性が悪く、静脈投与した場合に、SAHAが血中に速やかに放出されてしまい、期待していたEPR効果や、SAHAに対する代謝安定性の付与効果が期待できないと判断した。そこで、血中安定性を増すために、加水分解の反応部位であるエステル結合を、分子集合により形成されるミセルの内側に配置できるような直鎖PEG-SAHAを合成した。さらに直鎖PEG-SAHAの限界ミセル濃度を下げるために、2分子をジスルフィド結合でつなぐ工夫を施した。その結果、血清中の半減期が12時間以上に伸び、動態の大幅な改善に成功した。今後は、分子間のジスルフィド結合2つ以上形成することで、限界ミセル濃度をさらに下げると共に、SAHA分子が多く結合して活性効率が上昇した製剤の合成を行う。これらの製剤についての生理活性を細胞および動物レベルで検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
予算執行上の端数として残高が出た。 消耗品費に合算して執行する。
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