研究課題/領域番号 |
24590160
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
鳥羽 陽 金沢大学, 薬学系, 准教授 (50313680)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バイオマーカー / 石炭燃焼 / 越境汚染 / 曝露評価 / アジア |
研究概要 |
中国で排出された大気中の有機汚染物質が日本海を越えて日本に長距離輸送されている可能性が示唆されているものの、汚染物質は様々な燃焼発生源に由来し、地元発生源の寄与も無視できないことから、その程度を含め結論に至っていない。冬季から春季にかけて中国において大気汚染の主要な発生源となっている石炭燃焼煙に特異性が高く、大陸からの長距離輸送を明確にでき、また黄砂による大気汚染物質の輸送をも評価できると推定される石炭燃焼マーカーとして含硫黄多環芳香族化合物 (PASH)を提案し、燃焼発生源からの発生量及び大気中濃度、さらに尿中代謝物を生体指標(バイオマーカー)とする石炭燃焼煙の人体曝露評価法を開発することを目的とする。 平成24年度は、PASHの石炭燃焼マーカーとしての有用性を評価するため、頻用される4種の燃料(石炭、ディーゼル燃料、灯油、木材)の燃焼粉じん中PASH濃度を測定し、燃焼時のPASH放出量を比較した。各種燃料燃焼時のPASH放出量を推定した結果、石炭>ディーゼル燃料>木材>灯油となり、石炭が他の燃料と比べて数10~数100倍高い放出量を示した。また、都市大気中PASH濃度を定量した結果、北京では石炭暖房の使用に伴い石炭使用量の増大する冬季に夏季の約8倍の濃度となったが、金沢では季節差はほとんどなかったことから、PASHが石炭燃焼マーカーとして有用であると結論付けた。大気中PASH濃度は、多環芳香族化合物(PAH)に対して1/10、PAHのキノン体に対して1/10程度の濃度であった。PASHの代謝物については、CYP1A1による代謝実験を行い、代謝反応物中からPASHのスルホキシド体及びスルホン体を主代謝物として同定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
石炭、灯油、木材燃焼煙及びディーゼル排ガス中のPASHを定量し、石炭燃焼煙がPASHの主要発生源であることをが明らかとなり、大気粉じん中のPASH濃度についても北京の冬季に特に高いことが分かった。また、バイオマーカーの候補化合物となる代謝物の同定にも成功しており、当初の計画どりに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
生体内で代謝生成するPASH代謝物を推定して尿中代謝物の候補化合物を決定し、尿試料の前処理法と質量分析による検出を検討する。具体的には以下の項目について検討する。 1.生体内で生成するPASH代謝物の探索(候補化合物の選定) 石炭燃焼煙に対する特異性と大気中濃度が高いPASHを対象とし、SDラットにPASHを腹腔内投与して得られる尿中代謝物を、液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)で分析し、構造解析を行って主要な代謝物を同定する。24年度の結果から主代謝物をPASHのスルホキシド体、スルホン体及び水酸化体と推定して検討し、ヒト尿中から検出する代謝物の候補化合物を決定する。 2.LC-MS/MS及び尿試料の前処理法の条件検討 LC-MS/MSでPASH代謝物を最も感度よく検出するために代謝物候補であるスルホキシド体、スルホン体及び水酸化体についてESIモード及びAPCIモードでのモニタリングイオン等を最適化する。尿試料の前処理は固相抽出により行い、逆相系と順相系の固相を組み合わせて精製する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主として消耗品の購入に使用する。尿試料を精製するための固相抽出カートリッジやLC-MS/MS及びGC-MSのカラムを購入する。また、尿試料を処理し、分析するためのガラス器具類及び有機溶媒等の試薬類を購入する。
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