研究課題
中国で排出された大気中の有機汚染物質が日本海を越えて日本に長距離輸送されている可能性が示唆されているものの、汚染物質は様々な燃焼発生源に由来し、地元発生源の寄与も無視できないことから、その程度を含め結論に至っていない。冬季から春季にかけて中国において大気汚染の主要な発生源となっている石炭燃焼煙に特異性が高く、大陸からの長距離輸送を明確にでき、また黄砂による大気汚染物質の輸送をも評価できると推定される石炭燃焼マーカーとして含硫黄多環芳香族化合物 (PASH)を提案し、燃焼発生源からの発生量及び大気中濃度、さらに尿中代謝物を生体指標(バイオマーカー)とする石炭燃焼煙の人体曝露評価法を開発することを目的とする。平成25年度は、石炭燃焼煙に対する特異性と大気中濃度が高いPASHの1つであるジベンゾチオフェン(DBT)を対象とし、SDラットにDBTを腹腔内投与して得られる尿中代謝物を、液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)及びガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)で分析し、構造解析を行った。その結果、DBTのスルホキシド、スルホン、水酸化DBTを主要な代謝物として同定するすることに成功し、ヒト尿中から検出する代謝物の候補化合物として決定した。
2: おおむね順調に進展している
ラットに含硫黄多環芳香族化合物 (PASH)の1つであるジベンゾチオフェン(DBT)を腹腔内投与して尿中に排泄される主要な代謝物を同定することに成功し、さらに平成24年度にin vitro実験で得られたPASHの代謝物とも結果が一致したことから、同定できた代謝物はヒトにおいても尿中に排泄されている可能性が高い。バイオマーカー候補となり得る代謝物を計画どおりに見つけられたことから、概ね当初の計画通り順調に進展している。
決定した代謝物候補化合物(DBTスルホキシド、スルホン、水酸化体)について、ヒト尿中からの同定と定量を実施する。ラット尿試料を分析する際に用いた分析法を改良して10~50 mLのヒト尿試料に適用できるように固相抽出等の前処理を改良する。尿中代謝物の同定は、2 L程度のヒト尿試料を濃縮してマススペクトルを得ることで行う。同定された代謝物について10人程度の尿試料を定量して尿中濃度の基礎データを得る。
ラットに対する投与実験によって尿中への排泄が確認された代謝物について、バイオマーカーの候補化合物としてヒト尿中からの検出に取り掛かる予定であったが、平成25年度内に開始できなかったことから、前処理用の固相カートリッジの購入量が予定より少なかった。環境からの曝露しかなく、代謝物濃度が著しく低いヒト尿試料の分析を行うには、試料の前処理に高い濃縮率と精製効率が求められる。前処理には固相抽出を利用するが、多くの種類の固相カートリッジを購入して検証する。逆相系(ODS等)及び順相系(シリカ、アルミナ等)の充填剤が充填された、尿の前処理に使用する固相抽出カートリッジを購入する。
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