本研究は、無機化合物と有機化合物の両方の特性を有する有機金属化合物・錯体分子(ハイブリッド分子)に着目し、(1)各種培養細胞において生体防御因子の1つであるメタロチオネイン(MT)を効率よく誘導合成する化合物を見いだす、(2)次いで、MT誘導合成能を有するハイブリッド分子をツールとして活用し、新たなMT誘導機構の解明を目指す、(3)また、実験動物を用い、個体レベルでのハイブリッド分子の有用性を確認し、動脈硬化症などの各種疾患の予防と治療に貢献できる有用なハイブリッド分子を提案することを目的としている。 本研究により、血管内皮細胞に対してMT合成を効率良く誘導するハイブリッド分子として、120化合物の中からジエチルジチオカルバミン酸銅[Cu(II)(Edtc)2](Cu10)を見いだした。そこで、Cu10の作用発現機構を解析し、Cu10は、細胞内に取り込まれやすいことや、Cu10によるMT合成誘導には、重金属応答性転写因子であるMTF-1が関与するが、酸化ストレス応答性転写因子であるNrf2は関与しないことを明らかにした。血管内皮細胞以外の細胞種についても検討し、Cu10が脳微小血管周皮細胞や冠動脈血管平滑筋細胞に対してもMTの合成誘導を引き起こすが、その効果は血管内皮細胞に対する効果と比べて弱く、Cu10は血管内皮細胞に対してより強いMT誘導活性を示すことが示唆された。また、Cu10は、難水溶性化合物であったため、実験動物に投与するにあたって、Cu10の投与に適する溶媒の検討や可溶化剤の検討を行ったが、良好な結果は得られなかった。この点については今後のさらに検討が必要ではあるが、本研究によって、Cu10などのハイブリッド分子が、動脈硬化症などの各種疾患の予防に向けた有用なリード化合物になり得る可能性が示唆された。
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