研究課題/領域番号 |
24590164
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
打矢 恵一 名城大学, 薬学部, 准教授 (70168714)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Mycobacterium avium / MAC症 / ゲノム解析 |
研究概要 |
わが国において増加傾向にあるMycobacterium avium complex (MAC) 症の感染様式は、経腸感染と経気道感染の大きく2つに分けられる。このような感染様式の違いが何に起因しているか不明である。この問題を解明するために、国内で分離された肺MAC症患者由来のM. avium TH135株(経気道感染由来)の全ゲノム解析を行い、すでに米国でゲノム解読されているHIV陽性患者由来のM. avium 104株(経腸感染由来株)と比較・検討することにより、感染様式の違いに起因している要因の検討を行った。 平成24年度の研究実施計画に基づいて、これまで報告がない肺MAC症患者分離株であるM. avium TH135株のゲノム解析を行った結果、全ゲノム配列を決定することができた。ゲノムサイズは4,951,217 bpであり、ゲノム解析株であるM. avium 104株に比べて524,274 bp短かった。GC% は69.32%であり、CDSは4636、tRNA遺伝子は46、rRNA operonは1存在していた。両ゲノムの比較を行った結果、共通遺伝子は3855、TH135株に特異的な遺伝子は888、104株に特異的な遺伝子は1265であった。また、両ゲノムには特異的な領域が多く存在し、それらの領域のGC%は染色体全体のそれに比べて低かった。さらに、これらの領域の両端にはファージ由来のインテグラーゼあるいはトランスポゾン由来のトランスポザーゼなどのリコンビナーゼが存在していた。このような結果から、これらの領域は進化の過程でhorizontal transfer によって染色体に組み込まれたと考えられた。以上の結果から、経気道感染と経腸感染を引き起こすM. aviumは遺伝学的に異なっていることが示され、この違いが感染様式に反映されている可能性が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究目的は、肺MAC症患者由来のM. avium TH135株(経気道感染由来)のゲノム解析を行い、すでにゲノム解読されているHIV陽性患者由来のM. avium 104株(経腸感染由来株)と比較・検討することにより、感染様式の違いに起因している要因を明らかにすることであった。 平成24年度の研究実施計画に基づいて行った研究の進捗状況から、下記の理由により、当該年度における達成度については概ね達成できたと考える。1)肺MAC症患者由来のM. avium TH135株の全ゲノム配列を決定することができた。2)HIV陽性患者由来のM. avium 104株のゲノムと比較を行った結果、両ゲノムには特異的な領域が多く存在し、それらの領域には病原性に関与している多くの遺伝子の存在が見られた。3)M. avium TH135株のゲノムに特異的な遺伝子の保有状況を臨床分離株を用いて調べた結果、HIV陽性患者由来株に比べて、肺MAC症患者由来株に多く存在していた。一方、M. avium 104株特異的領域に存在している遺伝子の保有状況を調べた結果、HIV陽性患者由来株に多く存在していた。以上の結果から、経気道感染と経腸感染を引き起こすM. aviumは遺伝学的に異なっていることが示され、この違いが感染様式に影響を与えている要因の一つであることが強く示唆された。しかし、感染様式に影響を与えている遺伝子の特定については、今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策について、平成24年度に行ったM. avium TH135株(経気道感染由来)のゲノム解析により、染色体遺伝子とは異なる環状遺伝子(全長約200 kbp)の存在が示された。データベース検索の結果、これまでに報告がない新規プラスミドの可能性が示唆された。一般にプラスミド上には、病原遺伝子をはじめ薬剤耐性に関与している遺伝子が存在していることから、in silico解析により新規プラスミドの特徴、ORF等の検索、さらに病原遺伝子など特徴ある遺伝子の同定を行う。また、臨床分離株を用いて、プラスミド上の病原遺伝子などの保有状況をPCR法により調べ、感染様式や病態の違いとの関連性について調べる。 平成24年度の研究実施計画に従って、肺MAC症患者由来のM. avium TH135株の全ゲノム配列の決定を行ったが、平成25年度の研究実施計画では、新たに肺MAC症の増悪した患者、さらに感染が確認されたにも関わらず治療を開始するまでに至らなかった患者から得られた臨床分離株のゲノム解析を行い、両ゲノムを比較することにより、感染の成立に関わる病原遺伝子の同定を行う予定である。また、M. aviumはヒトだけではなく、ブタにも感染する。ヒトおよびブタに感染するM. aviumの特徴を調べるために、ブタ由来のM. aviumのゲノム解析も行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究実施計画により、肺MAC症患者由来のM. avium TH135株の全ゲノム配列の決定を行ったが、予定の使用額よりも少なく行うことができた。しかし、平成25年度の研究実施計画では、新たな菌株のゲノム解析の必要性が生じたため、研究費の使用の変更が生じた。平成25年度の研究実施計画では、肺MAC症の増悪した患者、さらに感染が確認されたにも関わらず治療を開始するまでに至らなかった患者から得られた臨床分離株のゲノム解析を行い、両ゲノムを比較することにより、感染の成立に関わる病原遺伝子の同定を行う予定である。さらに、M. aviumはヒトだけではなく、ブタにも感染する。これまでブタ由来のM. aviumのゲノム解析は行われておらず、ヒトおよびブタに感染するM. aviumの特徴を調べるために、ブタ由来のM. aviumのゲノム解析も行う予定である。しかし、当大学にはゲノム解析に必要な機器であるGenome Analyzer(GA)II(イルミナ社)やGenome sequencer FLX system(ロシュ社)を有していないため、北海道システム・サイエンス社に外注を予定しています。また未解読な部分が生じた場合、プライマーを設計してキャピラリーシーケンサーにより塩基配列を決定し完全な解読を行う予定であり、これらの塩基配列の決定に必要な研究費を平成25年度に使用する予定である。
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