研究課題/領域番号 |
24590167
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
森本 金次郎 安田女子大学, 薬学部, 教授 (80183664)
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研究分担者 |
佐藤 雄一郎 安田女子大学, 薬学部, 講師 (60416427)
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キーワード | ウイルス / レクチン / 抗ウイルス活性 / 自然免疫 |
研究概要 |
ウイルス感染初期の細胞応答を理解することで、新たな薬物の標的となる宿主因子を同定し、新規抗ウイルス薬の創出を目指している。高マンノース型糖鎖結合性レクチンPFLはウイルス粒子表面の糖タンパク質と結合することで、ウイルスと細胞受容体との結合、宿主細胞内への侵入を阻止することで、抗ウイルス活性を示す。このPFLは宿主細胞表面にあるインテグリンα2やEGFレセプターと結合し、これら分子の内在化をもたらすことも明らかとなっている。 平成24年度は、ヒト肺がん由来A549細胞を用いてインフルエンザウイルス感染初期の宿主細胞遺伝子の発現変動をマイクロアレイ法により解析した。この解析より、多くの抗ウイルス作用を呈する遺伝子の発動が起こっていることが示された。このA549細胞はウイルス感染後の細胞変性は顕著に現れない。一方、同じくヒト肺がん由来であるNCI-H292細胞はウイルス感染後著しい細胞変性を呈し、24時間後には細胞が死滅する。この様に用いる細胞により、著しく異なる様相を呈することは以前より示されていることである。個体においては様々な細胞種が混在していることからも、ウイルス感染の初期変動遺伝子を注目していく研究において、NCI-H292細胞におけるウイルス感染初期の遺伝子変動も解析する必要が生じた。本年度は、NCI-H292細胞を用いてインフルエンザウイルス感染初期の宿主細胞遺伝子の発現変動を解析した。A549細胞と比べると、明らかに抗ウイルス作用の発動がみられないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インフルエンザウイルスA/Udorn/72(H3N2)株感染後NCI-H292細胞は著しい細胞変性を呈し、24時間後には細胞が死滅する。一方、A549細胞は感染後顕著な細胞変性は現れない。ウイルス感染後4時間あるいは8時間において4倍以上の発現増加あるいは4分の1以下の発現減少がみられる変動遺伝子の数は、NCI-H292細胞では発現増加遺伝子数72、発現減少遺伝子数113、A549細胞においては発現増加遺伝子数348、発現減少遺伝子数79という結果であった。 A549細胞においては、昨年度に報告したように、炎症性サイトカイン、ケモカイン、I型インターフェロンまたそれに引き続くインターフェロン誘導関連遺伝子群の発現誘導が起こる。また、ウイルスの認識に関与するToll様受容体関連、RIG-I様受容体関連、NOD様受容体関連の遺伝子群の発現増加もみられ、細胞内での抗ウイルス作用の発動がみられる。しかし、NCI-H292細胞においては、これらの遺伝子群の発現変動は殆どみられなかった。即ち、ウイルス粒子の感知機構、インターフェロン誘導に関与する遺伝子群、さらにインターフェロンより誘導される遺伝子群等、抗ウイルス作用の発動に関わる遺伝子群の変動がみられなかった。その様な状態の中で、両細胞に共通して発現変動がみられる遺伝子で興味深い遺伝子として、CXCL10 (IP10), SOCS1, TNFファミリーであるFASLG (Fasリガンド6), TNFSF1 (Fasリガンド10)が挙げられる。インターフェロンλ3 (IL-28B)はA549細胞においては著しい発現増加がみられるが、NCI-H292細胞では発現抑制が起こっていた。両細胞において共通に発現抑制がみられる遺伝子としてアディポネクチン(ADIPOQ)が検出された。
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今後の研究の推進方策 |
A549細胞とNCI-H292細胞のインフルエンザウイルス感染時の初期変動遺伝子の解析において、SOCS1, CXCL10 (IP-10)は両細胞において発現増加がみられているが、相反する作用を持つものである。また、近年その抗ウイルス作用が明らかにされてきているインターフェロンλ3 (IL-28B)は、NCI-H292細胞において発現が抑制されている。これらのタンパク質レベルでの挙動を解析する予定である。 アポトーシス関連遺伝子において、細胞変性の著しいNCI-H292細胞では関与する遺伝子の発現に変化がみられない。一方、細胞変性の顕著でないA549細胞ではアポトーシスを促進する遺伝子と抑制する遺伝子の多くで発現変動がみられた。このように相反する作用をもつ遺伝子において、これら遺伝子の発現変動の結果、細胞は促進側に進むのかその逆かを解析する必要がある。実際にサイトカイン及びケモカインのタンパク質の変動をCytometric Bead Array法(CBA assay)により測定すること、さらにアポトーシス関連遺伝子のsiRNAを利用して、アポトーシスの挙動を詳しく解析することを計画している。 PFLを利用した抗ウイルス薬の開発としては、PFLの高マンノース特異的結合性を利用し、細胞内への抗ウイルス薬運搬ベクターとしての有用性を考えた研究を進める。PFL遺伝子に膜貫通部位を付加する組換え遺伝子(PFL-TM)を構築し、その遺伝子のクローニングを行い、発現タンパク質を精製する予定である。このPFL-TM産物をリポソーム膜に組込むことで、そのリポソーム中に内包された何らかの抗ウイルス薬を有効に細胞内へ運搬することができると考える。レクチンPFLの抗ウイルス薬そのものとしての働きと、別な抗ウイルス薬運搬ベクターとしての働きを併せ持つものとしての開発を考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、ケモカインリセプターCXCR4の細胞外領域の合成ペプチド合成を依頼したが、そのうちの1つが合成不能で、当初の予定より、出費額が8万円ほど少なくなった。 これらの費用は必要な抗体等の分品費用に当てることにより、より有効的な活用を行う予定である。
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