本研究では,生活環境化学物質が原因あるいは増悪因子と考えられる疾患において重要な役割を果たしている侵害刺激受容体TRP (Transient Receptor Potential) A1 チャネルについて,その感受性の個体差に影響を及ぼす遺伝的な要因並びに環境要因を明らかにするために,既知のNon-synonymous SNPs を導入した異型TRPA1 をHEK293 細胞で強制発現させて機能変化を検討するとともに,TRPA1 を発現するヒト由来細胞株を用いて生活環境化学物質による感受性亢進の有無を明らかにすることを目的とする.先ず、日本人で比較的高いAllele Frequency で検出されるSNPs として,5種類のアミノ酸置換 (R3C,R58T,E179K,K186N及びH1018R)を引き起こすSNPsを選定し,哺乳動物細胞においてそれぞれの異型タンパク質をほぼ同じレベルで高発現する細胞株樹立用のプラスミドベクターを構築した.構築したベクターを用いて異型TRPA1 安定発現細胞株を樹立し,野生型ならびに5種変異型TRPA1それぞれ4クローン計24クローンについてタンパク質の発現レベルを確認した.野生型ならびに5種変異型TRPA1計24クローンについて典型的なTRPA1 アゴニストであるCinnamic aldehyde 及び生活環境化学物質で既に著者らによってTRPA1を活性化することが判明しているフタル酸モノエステル類に対する応答性を細胞内Ca2+濃度の変化を指標として検討し,各SNP の影響を明らかにした.また、ヒト気道及び肺組織について,TRPA1 mRNA発現量の差をReal Time RT-PCR法により定量的に解析し,ヒト気道においてTRPA1 mRNAレベルで100倍以上の個体差が認められることを明らかにした.
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