研究課題/領域番号 |
24590177
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 健弘 東北大学, 大学病院, 助教 (50396438)
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キーワード | トランスレーショナルリサーチ / 慢性腎臓病 / 尿毒素 / 尿毒症 / トランスポーター / メタボローム解析 / エリスロポイエチン |
研究概要 |
慢性腎臓病(CKD)患者には体内に蓄積する尿毒素が酸化ストレスを惹起して組織の炎症や虚血・低酸素をもたらし、さらなる腎傷害と尿毒症物質蓄積を来すという悪性サイクルが存在する。現在約30万人の本邦の透析患者には年間約1兆6千億円の医療費がかかり、CKD進行と透析導入を阻止する治療法の開発は医療経済と社会に大きく貢献することになる。申請者らはヒト近位尿細管血管側に発現するSLCO4C1トランスポーターが尿毒素を排泄し、スタチンがAhR/XRE系を介してSLCO4C1の発現を促進し、高血圧や腎傷害を改善することを報告してきた(PNAS 2004, JANS 2009)。さらに尿毒素がGATA転写因子を介してSLCO4C1及び腎臓から分泌される造血ホルモンエリスロポイエチン(EPO)の発現を抑制することを示した。そこで尿毒素によるトランスポーターやEPOの発現抑制を解除することは腎傷害や腎性貧血の治療戦略となると考えられ、これらの遺伝子のレポーターアッセイにより効果的にEPOとSLCO4C1の発現を増強させる物質のスクリーニングを行った。その結果、EPO mRNA発現及びEPO産生培養細胞株でのEPO産生を増強する複数の候補化合物を見出した。また、これらの化合物はアリストキア酸、シスプラチンなど薬剤性腎傷害の原因物質による腎尿細管由来培養細胞を用いた、腎傷害モデルで腎由来細胞の細胞死を抑制する効果があった。現在この候補化合物Xによる動物実験モデルでの腎傷害への保護効果を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である、CKDにおけるトランスポーター発現増強およびEPO発現増強作用を持つ物質のスクリーニングで現在EPO発現を増強する物質は複数同定されている。 トランスポーター発現増強物質に関しては引き続きスクリーニングを継続する。 また、EPO発現増強物質には腎保護作用を示唆する培養細胞実験データがあり、現在マウスを用いた動物実験モデルとして、慢性腎不全貧血モデル、急性腎障害モデルに候補化合物を投与し、in vivoでの検討を進めている。 このように現在検討中の候補化合物には慢性腎臓病におけるEPO産生増強による腎性貧血の改善のみでなく、腎傷害進行を阻止する可能性がある。このため当初の年時目的を概ね達成していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在保有する、EPO産生増強作用及び、腎傷害保護作用を有する候補化合物について 1)マウス急性腎障害モデル(虚血再潅流モデル)、薬剤性腎傷害モデル(シスプラチン腎症、アリストキア酸腎症)、腎臓線維化モデルである一側尿細管結紮モデル(UUO)などに投与し、その効果を検討する。 2)培養細胞実験系及び上記腎臓病モデルマウス腎検体の遺伝子、蛋白、細胞内シグナル解析により、腎傷害保護作用のメカニズムを検討する。 尿細管における尿毒素排泄トランスポーターSLCO4C1の発現増強作用を有する化合物については引き続き、SLCO4C1遺伝子のレポーターアッセイ及び尿細管由来培養細胞株による発現増強によるスクリーニングを継続する。
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