研究課題/領域番号 |
24590179
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
降幡 知巳 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (80401008)
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研究分担者 |
本橋 新一郎 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60345022)
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キーワード | トランスポーター / がん / OATP |
研究概要 |
我々が同定したがん組織特異的に発現するcancer-type OATP1B3 (Ct-OATP1B3) mRNAについて、本年度はヒト大腸がん組織(n=39)における発現プロファイルの解析をおこなった。その結果、Ct-OATP1B3 mRNA発現は、ヒト大腸組織において87.2% (34/39) と極めて高い頻度で認められたのに対し、隣接正常組織の発現陽性頻度は2.6% (1/39)であった。また、発現陽性検体いずれにおいても、Ct-OATP1B3 mRNAの発現量は正常組織よりもがん組織において高かった。さらに、Ct-OATP1B3 mRNA発現は進行がんばかりでなく早期がん(ステージ0-2)においても高頻度で認められ、またその発現レベルとがん高分化型との間にも関連が認められた。これら発現プロファイルに基づきバイオマーカーの特異性・感度を評価するreceiver operating characteristic curve analysisをおこなったところ、Ct-OATP1B3 mRNAのがん検出力は0.93(最高値は1.0)であった。これは既存の大腸がんマーカーであるcarcinoembryonic antigenと同等の値である。したがってCt-OATP1B3 mRNAは、新たな大腸がん検出・診断バイオマーカーとなる可能性があると考えられた。一方、種々のがん細胞および遺伝子導入細胞系を用いて検討をおこなったが、Ct-OATP1B3のタンパク質発現およびトランスポーター機能はこれまでに認められていない。したがって、今後はCt-OATP1B3 mRNAの大腸がんバイオ―マーカーとしての確立を目指すとともに、その機能分子実体の同定にも注力する必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初の目的は、1)ヒトがん組織における発現プロファイル(頻度・レベル)を明らかとすること、および2)がん特異的OATP1B3のがん細胞における機能を明らかとすること、である。これら目的に対し我々は順次検討を進めており、下記のとおり得られ た成果は概ね期待に沿うものであると考えられることから、上記達成度を選択した。 1)では、前年度のヒト肺がん検体による解析に加え、ヒト大腸がん組織においてもct-OATP1B3 mRNAが高頻度に認められることを明らかとした。さらに本結果より、ct-OATP1B3 mRNAは新たながんバイオマーカーとなりうる可能性が見出された。また、この成果に対し、海外の研究者からの問い合わせもあり、共同研究遂行に向けた協議をおこなっている。したがって、これらの点について当初予想以上の成果が得られつつあると考えている。 2)では、昨年度、大腸がん細胞においてCt-OATP1B3が細胞増殖能に関与する可能性を見出したが、本年度までの検討結果ではCt-OATP1B3タンパク質の発現やトランスポーター機能の同定までに至っていない。しかしながら、これら結果をまとめると、Ct-OATP1B3遺伝子は従来予想されていたものとは異なる機序により細胞増殖能に関与する可能性が考えられる。したがって、これを解明すれば大きなインパクトとともに新たな切り口からのがん治療標的の同定につながると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、1)ヒト肺がん・大腸がん組織におけるCt-OATP1B3発現の発現と臨床情報との関連を明らかとすること、および2)がん特異的OATP1B3のがん細胞における機能を明らかとすること、をおこなう。 1)では、追加がん組織由来試料をを用い、Ct-OATP1B3の発現と患者背景(予後・がん種・性別・分化型・ステージなど)との関連を明らかとする。さらにバイオマーカーとしての有用性を確立するため、測定条件の最適化や関連が認められた項目に対する発現レベルのカットオフ値の設定を進める。 2)では、大腸がん細胞、肺がんおよび膵臓がん細胞を対象としてCt-OATP1B3強制発現細胞およびノックダウン細胞を作製し、がん細胞増殖能、浸潤能、アポトーシス耐性へのCt-OATP1B3の関与を明らかとする。これらの実験においては、tet-off発現システムやクリスパーなど新たな実験系を導入することにより、Ct-OATP1B3の機能解明へのブレイクスルーを試みる。
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