研究課題/領域番号 |
24590185
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
清島 眞理子 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00171314)
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研究分担者 |
加納 宏行 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40566494)
坂野 喜子 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 非常勤講師 (50116852)
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キーワード | 悪性黒色腫 / 抗がん剤耐性 / スフィンゴシンキナーゼ / PI3K |
研究概要 |
本研究は悪性黒色腫における抗がん剤耐性とスフィンゴ脂質代謝との関連に焦点を当て、がん幹細胞の増殖・分化のスフィンゴ脂質代謝による制御機構を明らかにし、新規治療薬の分子標的の基盤となる知見を得ることを目的としている。そこで、まず悪性黒色腫培養細胞株を培養し、培養液にシスプラチン(CDDP)、ダカルバジン(DTIC)などの抗がん剤を添加し、MTT測定法で、細胞生存率、すなわち各々のIC50を測定した。その結果から、これらの抗がん剤に対する耐性株Mel128と感受性株A375を以下の実験に用いることとした。 抗がん剤耐性については他のがん細胞において細胞内スフィンゴシンキナーゼ(sphingosine kinase, SPHK)の高発現が注目されている。そこで悪性黒色腫の各細胞株におけるSPHKの発現を検討したところ、抗がん剤耐性株のMel128では高発現していることが明らかになった。SPHKはスフインゴ脂質代謝において、細胞増殖や生存作用のあるS1P(sphingosine 1-phosphate)の発現レベルを調節する際に重要な役割を担う。SPHKの高発現によりS1Pは受容体を介して生存シグナルを促進し、抗がん剤耐性を生じるメカニズムが考えられる。そこで、S1P受容体のアンタゴニストであるFTY720に着目し、抗がん剤と併用することにより、抗がん効果を検討した。その結果、耐性株のMel128ではシスプラチンとFTY720の併用により、相乗的にアポトーシスを促進させることが明らかになった。 さらに、耐性株のMel128におけるシスプラチンとFTY720の併用時のシグナル伝達メカニズムを検討した。その結果、epidermal growth factor (EGF)受容体の発現減少、PI3K、Akt、mTORのリン酸化の低下が観察された。以上の点からFTY720は抗がん剤との併用において有用な薬剤と考えられ、そのメカニズムとしてPI3K/Akt/mTOR 系のdownregulationとEGFRの減少が関与すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
悪性黒色腫の抗がん剤耐性株Mel128におけるスフィンゴシンキナーゼ(sphingosine kinase, SPHK)の高発現、S1P受容体のアンタゴニストであるFTY720と抗がん剤の併用による、SPHK1の増加、アポトーシス促進を証明し、この系にPI3K/Akt/mTOR 系のdownregulationおよびEGFRの減少が関与する可能性を示した。これらのデータは学会で報告し、論文にまとめて投稿し現在審査中である。
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今後の研究の推進方策 |
臨床分離がん組織におけるスフィンゴ脂質代謝酵素とがん幹細胞マーカ-発現の免疫染色および免疫ブロットを用いた検討を行いたい。すなわち、臨床検体として得られた悪性黒色腫組織におけるSPHKとCD133/CD44/nestinの発現を各々の特異抗体を用いて組織染色を行い、正常組織と比較検討する。さらに、悪性黒色腫組織の薄切切片を作成し、SPHK1およびSPHK2抗体で免疫染色を行う。がん幹細胞マーカーのCD133、CD44、nestinの抗体を用いて組織の二重染色あるいは三重染色を行い、スフィンゴ脂質代謝酵素とがん幹細胞マーカー発現の関連を検討する。これら組織のホモジネイトを作成し、生存/増殖シグナル系(PI3K、Akt、PLD、ERK、Ras、COX、c-Myc、MMP2/9など)の各抗体を用いた免疫ブロットを行い、これらの発現を正常組織と比較検討する予定である。
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