研究課題/領域番号 |
24590188
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
岩本 卓也 三重大学, 医学部附属病院, 准教授 (30447867)
|
研究分担者 |
奥田 真弘 三重大学, 医学部附属病院, 教授 (70252426)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 白金系抗がん剤 / 過敏症反応 / オーダーメイド医療 |
研究概要 |
白金系抗がん薬の過敏症発現機序の解明に向け、以下の検討を行った。 1.三重大学医学部附属病院にて白金製剤による治療を行い、過敏症を発症した患者および8回以上の投与歴のある患者を対象として観察研究を行った。発症歴のある患者3名に対してカルボプラチンの脱感作療法(1000倍希釈から段階的に投与量を増量する方法)を施行したところ、投与を完遂した回数は異なるものの全ての患者においてアナフィラキシー様症状が発症した。全ての患者において、発症前日の好塩基球の膜蛋白CD203cの発現量が上昇したが、この好塩基球の活性化は、PI3K(ホスファチジルイノシトール3リン酸キナーゼ)によってほぼ完全に消失した。この結果から、カルボプラチンによる好塩基球の活性化は、従来から考えられているIgEを介するI型アレルギー機序と類似する機構が考えられた(日本薬学会第133年会にて報告)。 2.カルボプラチンによるアレルギー反応にIgEが関与するかどうかについて、アレルギー歴のある4名と未発症者4名の好塩基球における高親和性IgEレセプター(FcεR1)発現量をフローサイトメーターにて比較した。その結果、発症歴のある患者では未発症者に比べ、発現量が多い傾向にあった。また、過敏症未発症であるが、治療経過の中にFcεR1発現量が増加した患者がみられたことから、レセプター数の変化は過敏症を引き起こす前段階に増加し、過敏症反応の予測バイオマーカーになる可能性が示唆された。 3.平行して、ヒト好塩基球細胞KU812細胞を用いて、カルボプラチン曝露によるFcεR1発現量の変化を観察したが、これまでにレセプターの発現量の増加が報告されている、ヒドロコルチゾンやIL-3、IgEの曝露によってもさほど発現量に変化が見られないことから、KU812ではFcεR1発現量の変化を検討するのは困難であると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、マウスを用いて過敏症モデルを作成することを予定していたが、ヒトとマウスでは、FcεR1、FcγR1発現量や、細胞内シグナル伝達に対して抑制的に働くFcγRIIAやFcγRIIBの発現プロファイルが異なることから、まずはヒト末梢血またはヒト由来の培養細胞を用いて研究を行った。 カルボプラチンによるアナフィラキシー様症状の発症機序として、高親和性IgEレセプターであるFcεR1の発現量増加が関連すること、また、FcεR1のγ鎖から伝達される細胞内シグナル伝達経路が好塩基球の活性化(CD203cの細胞膜への誘導)に必要であることが確認された。以上より、カルボプラチンによる過敏症は、IgEを介する免疫機序が主に関与する可能性が高いことを見出したことから、1年間である程度、発症機序に関する情報を得ることができた。得られた情報は、今後、白金製剤の再投与可能患者を選別する上で重要な情報になると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、臨床研究を継続し、白金製剤による過敏症発症者と未発症者のFcεR1発現量を比較する。また、白金製剤を継続投与中の患者におけるFcεR1発現量変化とCD203c発現量との関係、過敏症発症との関係について、感度および特異度を算出し評価する。さらに、アレルギー反応におけるIgE依存性を評価するために、次の実験を行う。白金製剤によるアレルギー発症者の末梢血を乳酸処理することにより、FcεR1からIgEを剥離する(Allergology International 57:347-358, 2008)。IgEの受容体からの剥離については、蛍光ラベルした抗IgE抗体を用いて確認する。乳酸処理後の検体に、①白金製剤のみ、②患者血清(IgEが含まれる)+白金製剤、③患者血清のみを加え、フローサイトメーターにて好塩基球をゲーティングして、CD203cの発現量を定量する。それぞれの条件における好塩基球の応答性の差から、IgE依存性を評価する。 これらの実験を遂行することで、白金製剤におけるIgE依存性とFcεR1発現量の変化が過敏症の発症予測に有望かどうか検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
フローサイトメーターでの解析を行うための費用、関連分子のmRNA発現量を定量するためにリアルタイムPCRを行うための費用について、試薬および消耗品費用として5万円/月程度必要で有り、年間60万円を使用する。また、関連書籍の購入費に5万円程度必要である。旅費については、学会発表、論文投稿を見据え、研究代表者および分担者が約10万円ずつ、計20万円使用する。アレルギー関連分子の定量の一部を受託検査会社に委託するため、15万円(30テスト)程度必要である。
|