研究課題/領域番号 |
24590192
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
合葉 哲也 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (00231754)
|
研究分担者 |
北村 佳久 岡山大学, 大学病院, 准教授 (40423339)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 個別化医療 / 炎症 / 腎不全 / 肝代謝 / 薬物動態 / 向精神薬 |
研究概要 |
急性腎不全患者では、肝臓代謝型薬物の場合であっても、その血中濃度推移が大きく変化する他、組織の薬物感受性が著しく変動することが知られている。こうした薬物動態と薬効の変動機構には、腎臓の恒常性維持機能の喪失に因る生体の内部環境の擾乱や不全腎組織に生じる炎症反応の関与が強く疑われる。しかし、その詳細は未だ不明であって、薬物療法の個別化至適化に必要な投与薬物量の調節法も未確立である。申請者は、研究計画初年度の平成24年度においては、腎不全に伴う薬物の血中濃度推移の変動メカニズムの解明を目指し、特に、不全腎組織における炎症反応に着目して、炎症が薬物動態に与える影響を精査した。先ず、一連の実験に先立ち、カラゲニン処理法により、正常腎機能を保ちながら、不全腎組織と同程度に末梢局在性炎症を惹起させた急性局所炎症疾患モデルラットを確立した。次いで、これを用いて、代表的な肝代謝型薬物であるミダゾラムを対象に、静脈内投与後の薬物の血中濃度推移を検討したところ、ミダゾラム代謝物の生成遅延と血中濃度の低下が観察された他、ミダゾラム自身の血中濃度推移にも遅滞傾向が認められた。次いで、ミダゾラム代謝物の生成遅延メカニズムを検討する目的で、急性局所炎症モデルラットより調製した肝ミクロソームを用いて、ミダゾラムの代謝実験を行ったところ、ミダゾラム代謝消失反応にかかる親和性の亢進と代謝速度の低下が明らかとなり、また、代謝物の生成速度の低下も示された。更にウエスタンブロット法により肝臓の主要薬物代謝酵素の発現量を評価したところ、CYP3A2発現量の著しい減少が明らかとなった。これらの結果、局所炎症が異所性に肝機能に影響を与えることが明らかになり、腎不全患者では、不全腎組織から循環血液中に放出される炎症性因子が肝臓に作用して、薬物代謝酵素の発現量を変化させる結果、薬物血中濃度推移が変動することが強く示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎不全患者における薬物動態及び薬効変動メカニズムには種々の要因が関与していることが容易に推察されることから、その解明研究にあたっては、適切な実験系を構築し、解析を単純にすることが必要である。申請者は、本年度、薬物動態の変動メカニズムの解明に焦点を絞り、更に、腎機能不全に伴う恒常性擾乱と組織炎症の2つの影響因子の分離評価を試みた。本年度は、その前半に局所炎症モデル動物の構築が為されたことから、組織炎症の影響評価に関する研究が先行する形となったが、そこにおいて、局所炎症に伴って肝代謝型薬物の血中濃度推移が変動すること、そしてその原因が肝臓の薬物代謝酵素の発現変動であることを見出したことは、次年度以降、腎不全患者における薬物動態及び薬効変動メカニズムの解明を図る上で、非常に重要な成果であったと考えられる。今後は、こうした変化をもたらす炎症性因子の同定が課題となるが、カラゲニンと炎症の関係は既に理解が進んでいる部分が多いことから、サイトカイン類を中心とした網羅的な探索を行うことにより、この課題は達成可能と思われる。他方、恒常性擾乱の影響については、申請者らによる先行研究において、非炎症性の腎不全病態モデルが既に確立されている。従って、このモデルを用いて、薬物血中濃度推移と肝代謝活性を本年度と同様に解析検討することで、速やかに結論が出せるものと考えている。こうしたことから、研究計画はおおむね順調に進展しているものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画2年目となる平成25年度は、腎不全患者に認められる組織の薬物感受性変動機構の解明を目指す。申請者は先行研究において、血液から脳脊髄液への電解質移行性が腎不全に伴って変動することを示し、電解質輸送担体の機能変化とこれに起因する神経系の活動変調が、組織感受性の変動機構に関係することを示唆してきた。一般に中枢神経作用薬は肝臓代謝型薬物である。申請者は研究計画初年度において、肝代謝型薬物の場合にも、その血中濃度推移は腎不全時に変化することを明らかにしており、よって、腎不全に伴う組織の薬物感受性変化の解析にあたっては、薬物の血中濃度推移の変動を排除した薬効評価系の構築が必要となる。そこで今後は、先ず、薬物の脳室内直接投与を伴う薬効評価実験系の構築を行い、その後、GABA作動性ニューロン並びにヒスタミン作動性ニューロンに対する薬理作用と腎不全の関係を明らかにする。また、初年度に確立した局所炎症モデルについても、その薬効変動の有無を検討し、炎症性因子と感受性変動機構の関係を明らかにする。次いで、腎不全が異所性に中枢神経系の作用に影響を及ぼすメカニズムの解明に着手する。特に、循環血液中に放出された末梢由来炎症性因子等の腎不全関連物質が、血液脳関門を越えて中枢神経系に影響を及ぼす機構の解明が必要である。この機構については、循環血側からのサイトカインの刺激により、血管上皮細胞によって血液脳関門の内側へ二次的にサイトカインが放出されるとする報告があることから、適切な培養細胞実験系を新たに構築して、この報告を検証する予定である。また、本研究成果の臨床現場へフィードバックを念頭に、共同研究者と協働し、地域中核病院における入院患者を対象に、中枢神経作用薬の用法用量と腎機能の関係を解析する。これら一連の研究で得られた知見は関連学会において適宜報告するとともに、学術専門誌上にて公表する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究初年度の研究費については、計画立案時に申請していた超低温フリーザーの納入価格が競争入札により低く抑えられたこと、また、局所炎症モデル動物実験系の確立が円滑に実施され、これにかかる物品費が計画を下回ったことから、年度末までに予定研究費の約15%が未執行となった。平成25年度には、脳室内直接投与を伴う薬効評価のための新たな実験系の構築を予定しているが、予備検討の結果、実験系の確立にはかなりの困難が伴うことが予想されており、当初計画予算額以上の研究費が必要になると思われる。前年度未執行予算は専ら、実験系確立に伴う研究費の補填に充てることとする。その他、平成25年度配分の研究予算については、当初計画を特に変更することなく拠出する。
|