研究実績の概要 |
薬物による肺障害、特に肺線維症や間質性肺炎は極めて重篤な障害であり時に致死的である。しかしその発現機構には不明な点が多く、また新規医薬品の肺障害性の有無を事前に予測するシステムは存在しない。本研究では、薬物の肺障害性および肺障害とⅡ型-I型分化転換あるいは上皮間葉転換 (Epithelial Mesenchymal Transition : EMT)との関係性について明らかにし、肺線維化などの薬物性肺障害のin vitro予測システムを開発することを目的としている。 ラット肺胞上皮II型細胞由来の株化細胞RLE-6TNを用い、EMT誘導因子であるTransforming growth factor (TGF) -β1および肺障害性薬物としてブレオマイシン、メトトレキサートを処置した。位相差顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果、紡錘状へと変化した細胞が多く観察され、EMTが誘導されていることが示唆された。また、遺伝子発現に対する影響をreal-time PCR法を用いて検討した結果、いずれの処置においても上皮系マーカー遺伝子であるCytokeratin 19とTight junction protein ZO-1は有意に減少し、間葉系マーカー遺伝子であるFibronectinおよびVimentin, α-Smooth muscle actin, Connective tissue growth factorは有意に増加をした。 さらに、ヒト肺がん由来A549細胞を用いた場合もRLE-6TN細胞とほぼ同様の結果が得られた。また、メトトレキサートによるEMTの誘発には、一部TGF-β1と共通のシグナル経路が関与する可能性が示唆された。 以上の結果から、RLE-6TN細胞およびA549細胞は、薬剤によるEMT誘発の解析・肺障害予測に有用なin vitroモデル細胞系である可能性が強く示唆された。
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