四塩化炭素(CCl4)による肝障害発現にはCYP2E1による代謝的活性化が必要であるが、肝CYP2E1発現量には性差は見られない。本年度、発現量以外の酵素的要因として、雌雄CD-1マウス肝ミクロゾームを用いてkinetics解析を行った。CYP2E1活性に対するCCl4の阻害効果により算出したIC50値は雄の方が顕著に小さく、これとKm値から推定したCYP2E1に対するCCl4のKi値も雄の方が小さかった。このことから、雄マウスでCYP2E1のCCl4との親和性が高く、低濃度域でのCCl4代謝速度が大きいと推定された。一方、CCl4はCYP2E1の時間的依存阻害を惹起し、その程度は雌に比べ雄マウスで大きい傾向が見られた。これはCCl4代謝で生成したラジカルによるCYP2E1の分解あるいはミクロゾーム膜の脂質過酸化を示しているため、これらが雄優位な性差の要因となることが示された。実際、CCl4代謝に伴う脂質過酸化も雄マウスで大きい傾向を示した。 肝臓の雌化と肝保護効果の関連を明らかにするため、エストロゲン様作用を示すとされている大豆イソフラボンの一つゲニステインを用いて、CCl4誘発肝障害とサイトカインバランスに対する影響を調べ、性差として表れる内因性エストロゲンとの効果と比較した。既報の通り、CCl4 誘発肝障害発現には雄優位な性差が見られた。大豆イソフラボンを雄マウスに処理することによって肝障害が抑制され、見かけ上の雌化が得られた。CCl4投与による肝障害発現に先立ってTNF-αならびにIL-6の肝発現量の増加が見られたが、後者のみが雌優位であった。一方、大豆イソフラボンはCCl4投与によるTNF-αおよびIL-6いずれの増加も抑制し、雌化とは異なることから、外因性エストロゲンによるCCl4誘発肝障害抑制においては、サイトカインの修飾は主たる要因ではないものと考えられた。
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