研究課題/領域番号 |
24590210
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
千葉 康司 慶應義塾大学, 薬学部, 准教授 (30458864)
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研究分担者 |
松嶋 由紀子 慶應義塾大学, 薬学部, 講師 (10618531)
諏訪 俊男 慶應義塾大学, 薬学部, 教授 (20383664)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 個体間変動 / 遺伝子多型 / 低分子ヘパリン / 遺伝子多型 / CYP2D6 / 腎クリアランス / モデリング / シミュレーション |
研究概要 |
本年度は循環器疾患薬の血中濃度データを用い、既報モデルの民族間差および外的妥当性について評価した。ダルテパリンナトリウムは低分子ヘパリン類に属し、国内外において汎用されている。本剤を皮下投与すると血中濃度は上昇後1相性の指数関数的な減少に引き続き2つ目の消失相を示し、既報では2-コンパートメントモデルを用いてPK解析を行っている。一方、静脈内投与後と比較すると皮下投与後の半減期は長くflip-flop現象が認められる。このため既報モデルでは正確な分布容積を算出できず、日本人と欧米人の体重差をモデルに組み込むことが困難であったため、新規モデルを構築し、民族差の検討を行った。その結果、民族差の影響は有意には認められなかったが,体重がクリアランスおよび分布容積の有意な共変量として検出された。また、高分子薬剤を皮下投与した時に認められるリンパ管からの吸収をモデルに組み込み、二つ目の消失相を説明した。現在、他の低分子ヘパリン薬剤にも本モデルを適用し、外的妥当性について検討している。 本年度は、薬物動態の民族差の要因となる代謝酵素の固有クリアランス(CLint)の個体間変動に関する検討も行った。CYP2D6には遺伝子多型が存在しその頻度には民族差が認められる。公表文献より[未変化体尿中排泄量/代謝物尿中排泄量]の平均値と分散について収集し、これを用いてCYP2D6のCLintの変動を遺伝子多型ごとに求め、さらにCYP2D6基質のAUCの変動を推定することに成功した。また、本手法を改良し、腎分泌CLintの変動の推定も試みた。これらのCLintの個体間変動は、欧米人を対象に構築されたPK/PDモデルの日本人への適用性を評価する上で薬物動態の民族差を組み込む際に有用である。 加えて、既存薬剤の民族差評価に関する情報として、行政当局の類似性の判断と薬物動態の民族差について収集し整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、欧米人データにより構築された既存PK/PDモデルの妥当性を評価するとともに、日本人データを当該モデルに適用可能か否か等の作業仮説の確認を行った。既存モデルにおいて、低分子ヘパリン薬剤ダルテパリンを皮下投与した時の薬物動態解析は2-コンパートメントモデルを用いて実施されていたが、妥当性を検討したところ、静脈内投与時と半減期が異なることを説明できないモデルであった。このため新規モデルを構築し民族差について検討した。また、このモデルを他の低分子ヘパリンへ適用し、血中濃度データを発生させ、文献値の各時点の濃度の個体間変動と比較したところ、シミュレーションした濃度と標準偏差は文献値とよく一致し、構築したモデルは妥当であるものと考えられた。これら一連の作業仮説確認の操作が一通り完了したことより、本年度の目標は概ね達成されたものと判断する。 また、欧米人にて構築されたモデルの日本人に対する適用性を評価するにあたり、薬物代謝酵素特性、特に個体間変動値を得ることは有用である。各代謝酵素の遺伝子多型ごとの固有クリアランス(CLint)の変動が既知であれば、日本人のクリアランスの個体間変動を推定することは可能であり、モデルの外的妥当性を評価する上で有用なパラメータとなる。本年度はCYP2D6の各遺伝子多型ごとのCLintの変動を算出し、これらの値を用いてAUCの変動を推定できたことから、集積した文献値よりCLintの個体間変動を予測する方法は、概ね確立できたものと考えられる。 過活動膀胱治療薬の薬物相互作用の生理学的モデル解析の報告とともに最新情報の収集を計画通り国際学会にて行った。脳循環代謝改善薬についてはモデルの復元は完了し外的妥当性について検討を進め、抗菌薬についてはデータの収集を実施した。以上のことから、本研究は概ね順調に進展しているものと総合的に判断した。
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今後の研究の推進方策 |
日本人と欧米人には、体重差があることが報告されているが、この差は薬物の分布容積に反映されることが多い。本年度実施した作業仮説の確認時に、欧米人データを用いて構築された既存モデルでは、この分布容積を適切に評価できないモデルであったため、新たなモデルを構築し民族差を評価した。当初の計画では、日本人データを適用できるか否かについて、妥当性の検討までを目標としたが、今後も可能であれば、日本人データ適用の妥当性が確認できないモデルについては、新たなモデルを構築することも視野に入れ研究を遂行する。 また、薬物代謝酵素の遺伝子多型の頻度には民族差が知られていることから、本年度実施したCYP2D6の各遺伝子多型における固有クリアランス(CLint)の個体間変動に加え、酵素活性に民族差が知られているその他の代謝酵素についても、個体間変動の情報を収集する予定である。これらの情報が収集されれば、特にCLintの個体間変動の大きい代謝酵素により変換される薬物においては、血中濃度の変動を予測できる可能性があり、日本人データが適用できないモデルの改良に有用な情報になるものと期待される。 本年度は、PKとして循環器疾患薬、PDとして脳循環代謝改善薬にて作業仮説の確認を実施したが、次年度は研究開始時の実施計画に従い調査範囲を拡大し、抗がん薬、抗糖尿病薬、さらに抗菌剤・抗ウィルス薬に対象を展開する予定である。 加えて、臨床データにおける民族差評価のためのモデリング・シミュレーションの活用を目論み、公表申請資料等から従来の手法による類似性の評価と薬物動態の情報を収集し、モデル解析の結果との比較を行う計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
PK/PD解析ソフトウェアー(NONMEM 2パック)、統計解析ソフトウェアー(SAS)、薬物動態解析ソフトウェアー(WinNonlin)のライセンス料として1100千円、コンピューター一式(PC本体、モニター、プリンター)250千円、学会(日本薬物動態学会、臨床薬理学会、薬学会)参加費として100千円、印刷用消耗品200千円、図書50千円を使用予定である。
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