研究課題/領域番号 |
24590213
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
黄倉 崇 帝京大学, 薬学部, 准教授 (80326123)
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研究分担者 |
出口 芳春 帝京大学, 薬学部, 教授 (40254255)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 血液脳関門 / オピオイド / トランスポーター |
研究概要 |
In vitro BBBモデル細胞としてヒト脳毛細血管内皮細胞株hCMEC/D3細胞を用いて、オキシコドン、モルヒネおよびフェンタニルの細胞内取り込みを測定したところ、モルヒネの細胞内取り込みに比べ、フェンタニルとオキシコドンの取り込みが高値を示した。さらにジフェンヒドラミンおよびピリラミンのhCMEC/D3細胞への取り込みは、プロトン濃度勾配を駆動力とすることが示され、ヒト血機能関門においてもオキシコドントランスポーターが機能することが示唆された。麻薬性鎮痛薬の中でも類似化学構造を持つモルヒネとオキシコドンはヒトにおいても対照的な脳移行特性を持つことが示唆された。即ち、モルヒネがP-糖タンパク質によって脳への移行が制限されるのに対し、オキシコドンは積極的に脳内に取り込まれると考えられる。このことは、麻薬性鎮痛薬による疼痛緩和において有用な知見となるばかりでなく、オキシコドントランスポーターを利用した新規中枢作用薬の開発にもつながると考えられる。 さらにオキシコドントランスポーターの分子同定のため、hCMEC/D3細胞におけるトランスポーター遺伝子発現を解析した。378種のSLCトランスポーターのうち、約50種の候補分子の遺伝子発現をqPCRにより測定したところ、hCMEC/D3細胞においてMDR1に匹敵する極めて高いmRNA発現を示す6種のトランスポーターを同定した。加えて、脳関門で機能することを我々が報告したPMATと同程度の発現を示す8種のカチオントランスポーターを見出した。これらの知見は強制発現細胞およびRNA干渉を用いてオキシコドントランスポーターの同定を進める上で、重要な知見となる。加えて、hCMEC/D3細胞を用いたsiRNA法による遺伝子発現抑制条件の最適化を行い、効率的に標的遺伝子の発現を抑制することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラットのみならずヒトの血液脳関門においてもオキシコドンを輸送するプロトン交換輸送系が機能することを、ワールドワイドに評価されている唯一のヒト血液脳関門モデル細胞であるhCMEC/D3細胞を用いて明らかにできた。このことは本研究の根幹をなす部分であり、本研究全体からみても大きな成果であるといえる。加えて、hCMEC/D3細胞を用いることにより、ヒトにおける脳移行機構の解明、さらにはヒト脳移行性の予測法確立にもつながることが示唆された。従って、麻薬性鎮痛薬のみならず中枢作用型塩基性薬物の開発ならびに適正使用のために有用な情報を与え得るものと考えられ、この点に関して本研究課題が順調に進展していると考えられる。 また、血液脳関門におけるプロトン交換輸送系の分子実体の解明に関しては、候補分子を絞り込むことができ、hCMEC/D3細胞を用いたsiRNA法による標的遺伝子の発現抑制の実験条件確立に成功した。このプロトン交換輸送系の分子同定は日本国内外、大学および企業の多くの研究者がチャレンジしているテーマであるが、未だその分子実体は解明されていない。これまでにsiRNAを用いた輸送体探索までには至らなかったが、siRNAによる輸送体探索の準備を整えることができた。従って、これまでに誰も成功していない血液脳関門におけるプロトン交換輸送体の分子実体の解明に向けて、大きな足掛かりをつかんだと考えている。 以上の点から、現時点において本研究課題はおおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
In vitro血液脳関門モデル細胞を用いた麻薬性鎮痛薬の輸送特性解析に関して、麻薬性鎮痛薬に加えてモルヒネの構造類似体であるトラマドールおよびアポモルヒネについてもその輸送特性を解析する。これら薬物もオキシコドントランスポーターに認識される可能性が高く、さらにその立体選択性を調べることにより、麻薬性鎮痛薬の血液脳関門輸送特性解明に新たな視点を与えると考えられる。さらに必要に応じて人工脂質膜、SLC・ABCトランスポーター発現膜、アストロサイト細胞またはin vivo実験によるこれら薬物の血液脳関門輸送解析を行う。 プロトン交換輸送系の分子同定に関して、hCMEC/D3細胞における遺伝子発現プロファイル解析による候補分子の絞り込みの結果に基づいてsiRNAライブラリーを構築する。hCMEC/D3細胞を用いて最適化したsiRNAによる遺伝子発現抑制実験条件を用いて、hCMEC/D3細胞における候補分子の遺伝子発現を選択的に抑制し、オキシコドンまたはプロトン交換輸送系の基質の細胞内取り込みを測定することにより、候補分子がオキシコドントランスポーターとして働き得るかを調べる。並行して、hCMEC/D3細胞を用いたsiRNA実験の有用性を検証するため、血液脳関門で機能することが報告されているOCTN2 (SLC22A4)のカルニチントランスポーターとしての機能をsiRNAを用いて解析する。 麻薬性鎮痛薬の薬効に与える影響を調べるためには、プロトン交換輸送系の特異的な基質または阻害剤が必要になる。そのため、hCMEC/D3細胞を用いて、プロトン交換輸送系の特異的基質および阻害剤を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記のとおり、hCMEC/D3細胞における遺伝子発現プロファイル解析による候補分子の絞り込みとsiRNAによる標的遺伝子発現抑制条件の最適化に成功したが、siRNAの合成には至らなかった。このため発生した次年度使用額(401,413円)は、次年度予算と合わせ、オキシコドントランスポーターの分子実体の候補分子14種を含む21遺伝子のsiRNAライブラリー(6500円/siRNAx3siRNAs/genex21genes =409,500 )の購入費用とする。
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