研究課題/領域番号 |
24590219
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
野田 幸裕 名城大学, 薬学部, 教授 (90397464)
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研究分担者 |
毛利 彰宏 名城大学, 薬学部, 助教 (20597851)
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キーワード | 統合失調症 / モデル動物 / プロスタグランジンE2 / 認知機能 / 神経発達異常 / ドパミン / フェンシクリジン / グルタミン酸トランスポーター |
研究概要 |
①新生児期(生後2日から5日間)におけるプロスタグランジンE2(PGE2:10 mg/kg sc)暴露による脳神経機能、および胎生期(E17.5)の初代海馬神経細胞におけるPGE2(10 M)による神経発達への影響について検討した。その結果、新生児期PGE2投与マウスでは、溶媒投与マウスと比較して、成体期(生後10週齢)の前頭前皮質におけるドパミンの代謝回転が有意に低下していたが、セロトニンやノルアドレナリンの代謝回転に影響はなかった。海馬、側坐核や線条体には何ら影響はなかった。一方、初代海馬神経細胞の突起伸長は、PGE2添加によって濃度依存的に抑制された。したがって、PGE2は前頭前皮質におけるドパミン作動性神経機能を低下させ、神経発達を抑制することが示唆された。今後は、新生児期PGE2投与マウスの成体期における神経発達について検討を行う。 ②新生児期におけるPGE2暴露による乱用薬物(フェンシクリジン:PCP 10 mg/kg/day sc)やストレスに対する脆弱性について検討した。その結果、新生児期にPGE2を投与したマウスの生後5週齢(若年期)では、精神行動異常は認められなかった。しかし、新生児期PGE2投与マウスに生後4週(若年期)からPCPを7日間連続投与すると、自発運動量の増加、社会性の低下や物体認知記憶の障害が認められた。これら精神行動障害が認められたマウスの前頭前皮質や海馬におけるグルタミン酸トランスポーター(GLASTとGLT-1)の発現量は低下していた。一方、新生児期PGE2投与マウスに強制水泳ストレスや高所ストレスを負荷しても、意欲低下行動や不安行動などは認められなかった。したがって、PCP連続投与は、新生児期PGE2投与マウスにおける精神行動障害を顕在化あるいは重篤化し、乱用薬物に対する脆弱化が示唆された。今後は、新生児期のPGE2投与マウスの幼若期に疫学的なストレスを負荷した場合、精神行動障害が顕在化あるいは重篤化するかどうか検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合失調症の発症機序には、周産/新生児期における神経細胞や神経回路網の発達障害が関与するという神経発達障害仮説があり、この仮説に基づいて、統合失調症の発症機序の解明および予防・治療法の開発を目指している。 平成25年度は、平成24年度の成果から見出された種々の統合失調症の発症原因モデルに共通して増加していたプロスタグランジンE2(PGE2)に着目して、①新生児期におけるPGE2暴露による神経機能と神経発達への影響、②新生児期におけるPGE2暴露による乱用薬物・ストレスに対する脆弱性について検討した。①に関しては、精神行動障害を呈した新生児期PGE2投与マウスの前頭前皮質においてドパミン作動性神経機能が低下していること、初代海馬神経細胞においてPGE2暴露により神経突起不全が認められることを見出し、新生児期PGE2投与マウスにおける精神行動障害の発現には、ドパミン作動性神経機能の低下や神経突起不全が関与していることを明らかにした。②に関しては、新生児期PGE2投与マウスの若年期には認められなかった精神行動異常(自発運動量の増加、社会性の低下や物体認知記憶障害)が、乱用薬物(フェンシクリジン)を連続投与すると若年期においても認められることを見出し、乱用薬物に対する脆弱化を明らかにした。以上のように、①に関しては、in vivo(マウス個体)とin vitro(培養細胞)の研究結果を関連付ける研究(個体マウスにおける神経組織学的な解析など)を行う必要はあるが、計画していた研究は概ね終了し、神経発達障害仮説に基づく成果は得られた。②に関しては、PGE2暴露による乱用薬物に対する脆弱化は明らかにできたが、ストレスについては十分に明らかにできなかったので、疫学に基づいた幼若期ストレス負荷(フィジカルバイオレンスなど)に対する脆弱化を検討する予定である。したがって、研究計画の達成度は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
統合失調症における遺伝要因と環境要因の相互作用におけるプロスタグランジンE2(PGE2)の関与について明らかにする。すなわち、統合失調症の遺伝要因モデルであるDisrupted-in-schizophrenia 1(DISC1)変異遺伝子過剰発現マウスあるいは統合失調症患者においてゲノムやプロテオーム解析で見出された統合失調症発症関連遺伝子の発現を増加あるいは低下させたマウスの周産/新生児期にPGE2やそれらに関連する因子・要因を暴露することにより、これら統合失調症関連遺伝子変異マウスの行動変化が顕在化もしくは重篤化するかどうか検討を行っていく予定である。以上、得られた結果は順次取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年度では実験動物を用いた基礎研究に加え、患者血液から抽出したサンプルを用いた一塩基多系解析やプロテオーム解析からプロスタグランジンE2関連因子を探索する予定である。こうした臨床研究も遂行するための消耗品費等を購入する必要があり、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、基礎研究や臨床研究遂行のための消耗品等の購入に充てる予定である。
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