研究実績の概要 |
本研究では、統合失調症の発症要因の共通機序にプロスタグランジンE2(PGE2)が関与しているかどうか明らかにし、それに基づいた病因解明および新規予防や治療薬の開発を目的とした。本年度は、統合失調症における遺伝要因と環境要因の相互作用におけるPGE2の関与について検討した。その結果、統合失調症の感受性遺伝子の一つであるDisrupted-in-schizophrenia 1(DISC1)の変異遺伝子を過剰発現させたマウスの新生仔期にPGE2を暴露しても、成体期の精神行動障害に影響はなかった。DISC1とPGE2は、神経細胞の突起伸長やドパミン神経機能に対して類似した作用を示すため、相互作用による影響が顕著に認められなかったものと示唆される。一方、PGE2合成酵素類[Ptgs1, 2(COX-1, 2)、Ptges1, 2(mPGES-1, 2)、Ptges3(cPGES: cytosolic PGE synthase)]あるいは、その受容体[Ptger1-4(EP1-4)]の遺伝子が統合失調症の発症に関連するかどうか統合失調症患者の血液からDNAを抽出し、コピー数変異解析(Copy Number Variant:CNV解析)を行った。その結果、Ptges3のエキソン領域での重複が統合失調症患者1名のみに認められ、統合失調症の遺伝要因として、PGE2関連遺伝子の関与は小さいものと示唆された。以上の結果から、PGE2は統合失調症の発症に対する脆弱性に一部関与していることが示唆され、今後PGE2合成酵素や受容体EP1を標的として予防・治療薬としての有用性を検討していく。
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