研究課題/領域番号 |
24590221
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
大倉 一人 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (00242850)
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研究分担者 |
長宗 秀明 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (40189163)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 感染症 / ヒト特異的 |
研究概要 |
1.Intermedilysin(ILY)、Vaginolysin(VLY)、Streptococcus mitis-derived human platelet aggregation factor(Sm-hPAF)とヒト細胞側受容体(hCD59)との相互作用を解析した。ILY中のArg432がhCD59中のGlu76と水素結合を形成し、これを基点としてILYとhCD59は互いに整合性がとれる位置に落ち着くと考えられた。VLYとhCD59では、VLY:Lys447-hCD59:Tyr62, VLY:Arg419-hCD59:Glu76間に二つの水素結合が確認され、ILYとhCD59間の様な柔軟な相互調節はないことが伺えた。Sm-hPAFとhCD59間でも Sm-hPAF: Lys403-hCD59:Tyr62, Sm-hPAF:Arg375-hCD59:Glu76の二つの水素結合が確認された。ILYとhCD59間の総非結合エネルギーが234165 kcal/molであり、VLYとhCD59間(205 kcal/mol)やSm-hPAFとhCD59間(113 kcal/mol)より強い相互作用が観察された。 2.ヒト口腔常在菌Streptococcus anginosusに由来するβ溶血因子の探索を行い、化膿性連鎖球菌が産生する代表的なβ溶血因子であるStreptolysin-S(SLS)ホモログの存在を明らかにした。S.anginosusではSLSホモログをコードしている遺伝子が2つタンデムに存在し、各々の翻訳産物がβ溶血性に寄与することを示した。これら2つの分子SagA1およびSagA2について動的構造を解析したところ、リーダーペプチド領域とプロペプチド領域を有し、分子内に環構造を形成することでリーダーペプチド部分とプロペプチド部分の切断が制御されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題に関わる遺伝子操作や細胞培養、タンパク質の生成・修飾、リガンド設計・合成などのウェット実験の手技は、これまでに運用実績のあるものであり、操作過程での不具合が生じにくい。またドライ実験に関しても、分子力学法(MM)、分子動力学法(MD)、分子軌道法(MO) などをはじめとして、低分子化合物からタンパク質に対応できるツールが既に備わっており、その運用実績もあって研究の進捗に会わせてきめ細かい調節が出来る。また、共同研究者、研究協力者らと定期的に研究の打ち合わせを行って、それまでに得られた実験データを交換し議論することで、問題点や今後の研究方策が明確になる。これらの理由から、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ILYとヒト細胞側受容体hCD59との相互作用解析から、VLY、Sm-hPAFの持つ機能特性について見えてきた。VLYおよびSm-hPAFはILYの強力なヒト特異性を100%引き継いでいない変わりに、多種へ感染し生き残る術を獲得したと考えられ、細菌感染症の分子進化を考える上で非常に興味深い。これら毒素の種認識と細胞溶解のバランスについて、さらに詳細に解析しhCD59以外のVLY、Sm-hPAF特異的な受容体を探索する。 CDCファミリーやILY、VLY、Sm-hPAFのみならず、細胞膜溶解を伴う細菌感染に関わる因子として、今回発見したβ-溶血毒素SLSペプチドの機能についても検証を進める。SLSペプチドの設計を担う遺伝子には、sagAからsagIに至る9つの遺伝子が順に配置されており、そのうちsagA領域がコードする産物がSagA1、SagA2であることが今回明かとなった。これまでの解析からSagB, C, Dはヘテロ環形成に、SagG, H, Iは薬剤排泄に関与し、いずれもStreptococcus anginosus感染症に深く関わっていると考えられることから、より詳細な解析を行う。また、SagE, Fの役割についてもS. anginosusの感染病理を理解する上で重要だと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
ILY-hCD59間に見られた水素結合アンカーを基点とした効率的な相互の位置補正が、VLY-hCD59やSm-hPAF-hCD59では不完全であることから、これらの細胞溶解毒素に特異的なリガンドの探索と、より精密な受容体とのシミュレーションを行う。ヒト細胞に対する特異性に明確な序列を持つこれらタンパク質の動的構造を利用することで、感染症の発症・進行を制御する構造の設計に繋がればと考える。そのためウエット実験のみならず、ドライ実験系の運用にも研究費をあてる。また、CDCファミリーの細胞膜結合ドメインを利用したターゲッティングモジュールの試作を進めるなかで、ドメイン1からドメイン3の運動(回転と屈折)の制御が、細胞膜結合領域(ドメイン4)の細胞膜への効率的な結合に重要であることが明かとなってきた。このことを踏まえて、薬物送達に利用しうるCDCモジュールの設計開発を行う。 S.anginosusに由来するSagAファミリーは分子内に環構造を形成することで自らのリード部分を修飾する機構を備えている。分子運動に伴うエネルギー変化を追うことで、分子内に形成する環の順位を確定し、β溶血活性を担う動的構造を決定する。sag遺伝子が制御しうる他の機能、例えば、薬剤排出輸送担体を検証する。各リガンドの輸送担体についてはグラム陰性菌、陽性菌においてモチーフとなる構造が報告されており、これらを踏まえてsag遺伝子が統括するタンパク質産物の構造シミュレーション実施にも研究費をあてたい。
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