研究課題
本研究は多発性骨髄腫における抗癌剤耐性機序の解明とシグナル伝達阻害薬を用いた耐性克服を目的としている。平成25年度は樹立したアドリアマイシン耐性骨髄腫細胞株(RPMI8226/ADM)、ビンクリスチン耐性骨髄腫細胞株(RPMI8226/VCR)、デキサメタゾン耐性骨髄腫細胞株(RPMI8226/DEX)、メルファラン耐性骨髄腫細胞株(RPMI8226/L-PAM)と親株(RPMI8226)を用いて、耐性に関与するシグナル伝達因子の検討を行った。まず、樹立した耐性株においてシグナル伝達因子の解析を行った結果、Srcの活性化を確認した。次に抗癌剤耐性を克服するverapamil添加にて検討したところ、Srcの阻害に基づくMDR1、Survivinの発現低下、及びBimの発現増加を明らかにし、これらにより抗癌剤耐性を克服することを示唆した。また、Src阻害薬であるdasatinibによっても耐性を克服できることを明らかにした。さらに、verapamil及びdasatinibはCAM-DRも克服できることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度において、既に作成済みの抗癌剤耐性株(RPMI8226/ADM、RPMI8226/VCR、RPMI8226/DEX、RPMI8226/L-PAM)を用いて、抗癌剤耐性獲得に関与するMDR1やsurvivinの発現増加及びBimの発現低下にはSrcが関与することやその阻害薬により抗癌剤耐性を克服できることを明らかにした。また、Srcの下流に存在するシグナル伝達因子についても解析中であり、ERK及びAktなど数種類の因子の活性化を認めている。さらに、活性化が認められたシグナル伝達因子の阻害薬(分子標的薬)により、抗癌剤耐性を克服することも実験例は少ないが確認している。抗癌剤耐性株の作成については、ボルテゾミブ耐性株の作成を行い、耐性株を樹立した。これらについても薬剤耐性に関わる因子やシグナル伝達因子の活性化について、real time PCR及びimmunoblottingにより解析を進めている。CAM-DR誘導骨髄腫細胞の作成においては骨髄間質細胞との共培養にて抗癌剤耐性を確認しており、抗癌剤耐性に関わる実行因子及びシグナル伝達因子の解析を進めている。現在までにCAM-DRに関わる因子をreal time PCRあるいはimmunoblottigにより検討しており、受容体やアポトーシス関連因子が関与することを認めている。また、シグナル伝達因子については受容体下流の因子の解析を行っている。この結果については現在、投稿準備中である。これらのことから、研究計画通り、おおむね順調に進行していると考える。
平成26年度は作成した抗癌剤耐性に関わるシグナル伝達因子の解析を引き続き検討を進める。平成25年度では抗癌剤耐性やCAM-DRに関与する数種類のシグナル伝達因子の活性化を認めているが、それらが実際に抗癌剤耐性あるいはCAM-DRに関与するかは現在のところ不明である。そのため、抗癌剤耐性、CAM-DRに重要なシグナル伝達因子を同定し、シグナル伝達阻害薬(分子標的薬)により抗癌剤耐性及びCAM-DRが克服されるかを明らかにする。また、正常細胞への影響については検討できていない。そのため、耐性に関わるシグナル伝達因子の同定後、抗癌剤とシグナル伝達阻害薬の併用投与の検討を速やかに行い、in vitroレベルでの正常細胞に細胞死が誘導されないことを明らかにする。抗癌剤耐性に関わる実行因子(アポトーシス調節因子や薬剤排泄トランスポーターなど)やシグナル伝達因子の検討において、ボルテゾミブ耐性株では同定できていない。そのため、この耐性株においてはreal time PCR及びimmunoblottingによる抗癌剤耐性に関わる因子やシグナル伝達因子の同定を試みる。これにより薬剤耐性に関わる候補因子を明らかにした後、siRNAを用いた検討により実行因子の同定を試みる。その後、活性化が認められたシグナル伝達因子阻害薬を用い、抗癌剤耐性が克服できるか検討を行う。またこの際、実行因子の発現に変動が誘導されるかも確認を行う。上記を明らかにした後、担癌マウスを用いた検討によりシグナル伝達因子阻害薬での抗癌剤耐性克服効果を検討する。
平成25年度ではin vitroで抗癌剤耐性機序の解析を中心に行っており、ある程度の成果を挙げている。また、in vitroの解析結果を平成26年2月頃まで精力的に行っていたため、in vivoでの検討に予定していた研究費を執行できなかったためである。そのため、平成25年度で使用できなかった予算を平成26年度での研究計画に充当し、さらなる研究発展のために使用する。平成26年度では最終的にin vivoでの検討を予定しており、ヌードマウスやSCIDマウスを使用するため、多額の予算を必要とする。そのため平成25年度及び平成26年度の研究費をマウス購入費に充当する。また、様々な抗癌剤耐性株における耐性獲得因子の検討のためPCR arrayや抗体、DNA arrayなどの購入を予定しており、これらについても平成25年度及び平成26年度の研究費を充当し、さらなる研究遂行に使用する。
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