研究課題
膵臓がんは早期発見が難しく、最も予後の悪いがんの一つとして知られている。また、膵臓がんに対する化学療法は限られており、新たな化学療法の探索が急務の課題である。これまで、腎臓がんに対するPPARγ刺激薬の抗腫瘍効果を明らかにしてきた。そこで、膵臓がんに対するPPARγ刺激薬の抗腫瘍効果を明らかにすることを目的に、研究を実施している。前年度までにPPARγ刺激薬インスリン抵抗性改善薬であるトログリタゾンならびにピオグリタゾンの抗腫瘍効果を検討し、ヒト膵臓がん細胞株Panc-1ならびにMIA Paca-2に対して、トログリタゾンは濃度依存的に細胞増殖阻害効果を示すものの、ピオグリタゾンは効果を示さないこと、またトログリタゾンの効果はPPARγ非依存的であることを明らかにしてきた。今年度は、さらにその細胞増殖阻害効果に関与する因子を明らかにする目的で、種々のシグナル伝達系タンパク質の発現をWestern blotting法により検討した。その結果、どちらの細胞においてもJNKのリン酸化レベルが上昇し、MIA Paca-2細胞においては、JNK阻害剤であるSP600125の併用処置により、生存率が有意に回復した。一方、Panc-1細胞においては、生存率の変動は認められなかった。したがって、MIA Paca-2細胞においては、トログリタゾンがJNK経路を介して細胞死を引き起こすこと、Panc-1細胞ではJNK経路が活性化するものの細胞死への寄与は小さいことが示唆された。さらにどちらの細胞においても、ERKおよびAktリン酸化レベルの上昇、DNA修復関連酵素ERCC1の低下等も確認された。さらに、膵臓がんに汎用されるゲムシタビンと糖尿病治療薬の併用効果の検討についても着手し、一部の経口糖尿病薬でゲムシタビンの作用増強効果を確認した。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度では、PPARγ刺激薬による細胞増殖抑制効果の作用機序解明として、p38 MAPK経路を中心とした寄与の解明を予定しており、ほぼ予定通りに達成していると考えている。この経路の寄与が大きいと予想していたが、結果としては、それほど顕著でないことが明らかとなった。計画通り進まない時の対応として、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析等の網羅的な解析を計画していたが、DNA修復系が関与することが認められ、今後はDNA修復系を着目して研究を進める予定である。また、ゲムシタビンと糖尿病治療薬との併用効果についても着手し、一部の結果を得ることができた。このこともおおむね予定通りである。
平成26年度では、さらにin vitroにおいて、トログリタゾンの作用機序として、DNA修復系の関与を明らかにすること、ゲムシタビンとトログリタゾンを含む糖尿病治療薬の併用効果について明らかにすることを予定している。また、in vivoにおける検討にも着手する予定で、まず第1段階としてJNK経路の関与が示唆されたMIA Paca-2細胞の担がんマウス作成から実施する予定である。
すべて 2013
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Int J Med Sci
巻: 10 ページ: 1755-1760
10.7150/ijms.6749