膵臓がんは早期発見が難しく、最も予後の悪いがんの一つとして知られている。また、膵臓がんに対する化学療法は限られており、新たな化学療法の探索が急務の課題である。これまで、腎臓がんに対するPPARγ刺激薬の抗腫瘍効果を明らかにしてきた。そこで、本課題では膵臓がんに対するPPARγ刺激薬の抗腫瘍効果を明らかにし、新たな膵臓がん治療法への応用を目的とした。 前年度までにヒト膵臓がん細胞株Panc-1ならびにMIA Paca-2を用いて、PPARγ刺激薬であるトログリタゾンの細胞増殖阻害効果を検討し、PPARγ非依存的であり、MIA Paca-2ではJNK経路を介して細胞死を引き起こすことを明らかにしてきた。今年度ではさらに詳細な作用機序を明らかにするとともに、in vivoにおける効果を検討した。すなわち、MEK阻害剤であるU0126およびERK阻害剤であるERK inhibitor IIを用い、トログリタゾンのIC50値付近の濃度と併用処置した。その結果、トログリタゾン単独処置と比較して生存率の回復は認められなかったことから、MEKおよびERKの経路は関与しないことが示唆された。次にMIA Paca-2をBalb/c雄性ヌードマウスの背部に皮下移植した。MIA Paca-2が生着したことを確認し、移植後14日後をDay 0として、Day 1から週3回トログリタゾンを200 mg/kgの用量で2週間経口投与した。腫瘍体積は(長径×短径×短径)/2で算出して評価するとともに、体重を安全性の指標とした。移植後28日に腫瘍を摘出し、その重量も測定した。その結果、トログリタゾン投与群において、有意な差は認められないものの、ビークル投与群と比較して腫瘍体積ならびに重量は低下傾向を示した。したがって、トログリタゾンはin vivoにおいても抗腫瘍効果を示す可能性が考えられた。
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