研究実績の概要 |
頸部の鰓下筋の形成を調べた。羊膜類の鰓下筋は舌下神経で支配される舌筋群で、咽頭弓の背側にある皮筋節から脱上皮化した未分化な細胞が、咽頭弓の尾側を回り込むようにして咽頭弓の腹側へと遊走し、移動後に筋分化を開始して作られる。移動中の細胞ではLbx, Pax3などが、移動後にはMyf5など特徴的な遺伝子が発現する(MMP様式)。このような筋の発生様式は四肢筋にも見られるが、肋間筋の様に皮筋節が上皮性を保ったまま筋分化を行いながら腹側に伸長して作られる様式に比較して、進化的に新しい筋の形成方法である。 メダカの鰓下筋と胸鰭筋の由来を調べるため前方体節をGFP標識してその分化を観察したところ、同じ体節から鰓下筋と胸鰭筋が作られた。これらの筋を作る細胞は間葉状態で移動を行い、MMP様式に特徴的な遺伝子発現を示した。従って、メダカの鰓下筋と胸鰭筋はMMP様式によって作られることが分かった。 ヤツメウナギは対鰭(四肢)を持たないが鰓下筋を持っており、これはMMP型の遺伝子発現パタンを示す(Kusakabe et al., 2011)。移動中の鰓下筋原基の細胞は密な凝集塊を作っているものの、基底膜、細胞接着構造の存在は認められず、間葉状態で移動していた。 対鰭(四肢)を持つ動物の中で最もbasalな位置にあるトラザメの鰓下筋と胸鰭筋は、分節的な構造を保持しながら咽頭弓腹側、肢芽に伸びてゆく体節由来の細胞群から作られていた。これらの細胞はLbx, Pax3と同時にMyf5をも発現し、基底膜は観察されないものの、細胞接着構造、細胞極性が存在しており、上皮様の構造と判断された。 以上から、鰓下筋はMMPとして進化し、その二次的転用として胸鰭筋が進化したが、板鰓類(サメ)においては鰓下筋、胸鰭筋共にMMPメカニズムが二次的に失われたのであろうと推察された。
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