私たちの体は、さまざまな形態や機能を持った組織・器官で成り立っている。それぞれの器官は、固有の前駆細胞(プロジェニター)から形成されると考えられる。よって前駆細胞を知ることにより、その器官の発生メカニズム、先天性疾患の発症メカニズム、癌などの病態発症機序を理解することにつながると考える。 泌尿生殖器官など体幹後部に異常が観られる先天性形成異常は、尿道下裂や鎖肛を含め多様であり、その発症率が高いにも関わらず発症メカニズムはほとんどわかっていない。ましてやその前駆細胞は何か?その実体に関しては全くわかっていない。これまで、体幹後部前駆細胞の同定は困難であった。しかし、私は、マウス胎児体幹後部に興味深い発現を示す遺伝子として“Isl1”を見出した。さらにIsl1が発現する細胞で特異的に増殖因子の1つであるBmp4(骨形成因子4)を機能破壊すると、ヒト先天性体幹後部形成異常に類似した形態異常を呈することを見出した。本研究は、遺伝子改変マウスを駆使し、体幹後部を形成する前駆細胞の同定とその破綻が引き起こす先天性形成異常の発症メカニズムについてプロジェニターを知ることで統合的に理解することを目的としている。 タイムラプスイメージングにより体幹後部形成に関与すると考えられるIsl1発現細胞の細胞挙動を長時間観察するため、培養条件について検討を行い、長期観察に適した条件を見出した。また、Isl1creBmp4cKOマウスにおいて、体幹後部予定領域に発現する遺伝子の発現を検討したところ、Bmpシグナルは低下しており、いくつかのマーカー遺伝子の発現が低下していた。よって、体幹後部予定領域においてBmp4は、オートクライン的に機能しており、その下流で機能し得る候補遺伝子を見出すことができた。
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