研究課題/領域番号 |
24590237
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
中谷 雅明 横浜市立大学, 医学部, 助教 (70422095)
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キーワード | 細胞極性 / 平面極性 / 形態形成 / 薬剤誘導性遺伝子ノックアウトシステム / 不死化上皮細胞株 / ES細胞株 / プロテオミクス解析 |
研究概要 |
本研究は、形態形成過程において3次元細胞極性制御に関わる、具体的な分子ターゲットを同定することを目的とする。薬剤誘導性遺伝子ノックアウトシステムを用いて、形態形成に関連する遺伝学的相互作用の本態を、タンパク質の活性調節レベル・遺伝子発現調節レベルで解明することを本研究の目標とする。 これまでに薬剤誘導性遺伝子ノックアウトシステムによる、マウスの胚発生過程での形態遺伝学的解析から、aPKC-PAR系とWnt-Daam-PCP系の間に遺伝学的相互作用が存在するという予備的な結果を得ていたが、統計学的に有意性な相互作用をaPKC遺伝子とDaam1遺伝子の間に検出した(Additive Genetic Interaction)。免疫沈降法を用いた生化学的な解析では直接のタンパク質相互作用を認めなかったので、介在する分子の検索を行い同定した(Physical Interaction)。さらに機能的な相互作用を検討する目的でアフリカツメガエル胚を用いたノックダウン-レスキューの実験を行い、機能的な相互作用を検出することに成功した(Functional Interaction)。 これとは別に、aPKCコンディショナル・ノックアウトマウス由来の細胞株を樹立し、薬剤誘導下で遺伝子ノックアウトしてリン酸化プロテオミクス解析を行うことにより、細胞極性を直接制御する下流タンパク質の検索を行った。細胞株は異なる2種類の方法で樹立した。1種類については解析が終了しており、約20の候補タンパク質を同定している。もう1種類の細胞株については現在検討中である。 さらに、発生分化過程におけるaPKCの機能解析の目的でSerum/Feeder-Freeの条件でのES細胞株の樹立試み、これも成功している。今後さらなる検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、細胞極性と一括りに表現される、「1細胞の極性と多細胞間における極性」に何らかの相互作用があるか検討している。この問いに対し、分子生物学、生化学、発生学、遺伝学、初代培養細胞技術、不死化細胞株樹立技術、リン酸化プロテオミクス解析技術を集約的に用いることにより解析を行っている。 これまでの我々の研究成果から1細胞極性を制御する遺伝子としてaPKCを、多細胞間における極性(平面極性:PCP)を制御する分子としてWnt-PCP経路に関わるDaam1を同定し、遺伝子ノックアウトを行うことにより、表現型を解析してきた。その結果、両遺伝子共に胎生致死となることが確認されている。胎生致死の表現型を示す場合、細胞生物学的、発生生物学的、生化学的解析が困難であるが、薬剤誘導性遺伝子ノックアウトシステムを導入することにより解析可能な実験系を構築した。この実験系を用いることにより、「1細胞の極性と多細胞間における極性」の具体的な関わりを検討することが可能となった。本研究では遺伝学的、生化学的、機能的な相互作用を見いだすべく検討を重ねてきた結果、aPKC遺伝子とDaam1遺伝子の間にこれらの相互作用が存在し、かつ両者を結びつける介在分子の同定に成功した。さらに本研究開始時には困難が予想された、下流の標的分子を見出す為の実験系の構築にも成功し、予備的な結果も得ている。 これらの成果は予想を遙かに上回る結果である。
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今後の研究の推進方策 |
胚発生過程の形態遺伝学的解析の成果を論文発表するために必要なデータの収集はほぼ終了している。また、結合タンパク質の検索と、構造生物学的解析の結果などから、aPKCとDaam1の間に仲介すると考えられる候補分子の検索を行い、遺伝学的相互作用を裏付ける細胞生物学的・発生生物学的・生化学的な検討もほぼ終えている。これらの成果を発信する為に論文の執筆を行う。 樹立が成功したES細胞株および培養細胞株については、遺伝子ノックアウト有無の条件でのサンプルを調整し、形態学的解析、プロテオミクス解析、トランスクリプトーム解析を行う。研究のさらなる発展の為に、引き続き薬剤誘導性遺伝子ノックアウトシステムと不死化細胞株樹立技術、ES細胞株樹立技術を用い、分子生物学的・生化学的・発生学的解析やリン酸化プロテオミクス解析に耐える新たな実験系の構築の試行を継続する。
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次年度の研究費の使用計画 |
必要な物品を必要な分だけ購入しているが、一部の培養用の試薬などには使用期限があり、当該年度内に購入すると使用できなる恐れがあった為、次年度に繰り越しした。 研究は予定通り順調に進行しており、使用している試薬類は非常に高額であるので、使用期限に気を付け有効に活用する。また、今年度は学会発表や論文の掲載料など、より多くの支出が予想される為、適宜研究費を活用する。
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